野球日本代表「侍ジャパン」は2017年3月7日、第4回WBCでの「初陣」となる対キューバ戦に快勝した。だが、この試合ではグラウンドにいた選手以上にネット上の注目を集めた「観客」がいた。
その観客とは、レフトスタンドで侍ジャパンを応援していた少年だ。彼は、侍ジャパンの選手が放ったホームランを「妨害」したとして、ネットユーザーから猛バッシングを浴びている。だが一方で、この少年の行為を報じた一部メディアに対しては、「未成年を晒し者にするのか」と問題視する動きも高まっている。
ホームラン性の当たりを「キャッチ」
事件は、1-1の同点で迎えた4回ウラの侍ジャパンの攻撃中に起きた。1アウト2塁のチャンスで打席に立った山田哲人選手は、レフト方向に強烈なホームラン性の大飛球を放った。
だが、この打球がスタンドに入る直前、レフトスタンド最前列にいた少年が身を乗り出すようにしてキャッチ。この行為を受け、審判団がビデオ判定を行った結果、山田選手の打球はホームランではなく「二塁打」として試合が再開することになった。
こうした判定を受け、打球をキャッチした少年に一部のネットユーザーが激怒。少年の行為がなければ「判定はホームランだった」として、
「バカなファンが山田のホームランキャッチして二塁打にしちゃったよ...捕らなきゃスタンドインだったのに」
「2度と野球見にくるな」
といった批判の声をツイッターに寄せたのだ。試合中には一時、ツイッターのトレンドには「クソガキ」など複数の関連ワードが登場するほど、少年に対するバッシングは過熱していた。
観客がプレー中にグラウンド上の打球を触ることは野球規則で「妨害行為」とされており、大リーグでは退場処分になったケースもある。そのため、今回の少年の行為には問題があるのだが、ネット上でのバッシングは「異常」と言えるほど高まっていった。
一部のネットユーザーは、ツイッターを通じて少年の氏名や通う学校などの個人情報を「特定」したと主張して公開。また、球場にいた観客の中には、少年の写真を撮影してリアルタイムでツイッターに投稿する人も出ていた。こうした写真や個人情報をネット上で拡散するユーザーも現れるなど、騒動は深刻化している。
住所や電話番号も特定され、嫌がらせの電話が殺到
このように、少年へのバッシングが異様に過熱する状況で思い出されるのが、米大リーグで起きた「スティーブ・バートマン事件」だ。
これは、2003年のナ・リーグチャンピオンシップに出場したシカゴ・カブスのファンをめぐって起きた騒動だ。勝てば95年ぶりのワールドシリーズ出場が決まるという大一番の試合で、カブスファンの男性がファールゾーンに飛んだ打球を取ろうと手を伸ばし、結果としてカブス選手の守備を「妨害」してしまった。
このワンプレーをきっかけに、カブスは3点差をひっくり返されて逆転負け。試合後、カブス選手の守備を妨害した男性ファンの様子が、ニュース番組や新聞などで繰り返し報じられた。こうした報道をきっかけに、その男性がスティーブ・バートマンという26歳の青年だということがすぐさまネット上で「特定」された。
バートマン氏の住所や電話番号も特定されたため、自宅には嫌がらせの電話が殺到。当時の現地報道によれば、試合当日は、帰宅したバートマンの身を守るため、6人の警官が自宅前で警備に当たったという。
このバートマン事件については、米スポーツ専門局「ESPN」が2011年にドキュメンタリー番組を放送。その中では、バートマン氏への批判が高まった一因として、問題のシーンを何度も放送したメディアにも責任があると指摘していた。
今回の侍ジャパンの「幻のホームラン」をめぐって、ネット上ではすでに「バートマン事件」の再来を危惧する声も出ている。それに合わせて、メディアの「行き過ぎた」報道を批判する動きも高まりつつある。
「同年代の犯罪おかしたやつより酷い扱い」
試合翌日の3月8日のスポーツ各紙をみると、デイリースポーツ(12版B)とスポーツ報知(11版)が少年の「顔」が分かる写真を紙面にそのまま掲載。その一方で、スポーツニッポン(11版B)とニッカンスポーツ(9版)では、少年の腕の部分だけを拡大し、顔が分からない状態にした写真を掲載していた。
そのほか、フジテレビの「直撃LIVE!グッディ」はツイッター上で、現地にいたユーザーが投稿した少年の写真に対し、使用許諾を求めるリプライを飛ばしていた。この依頼に対し、投稿者は「地上波で(少年を)晒すつもりですか?」との批判を返している。
こうした一部メディアの報道姿勢について、ツイッター上には、
「一般人が晒し者にするのもどうかと思うがメディアが顔写真や言動を報道するのも問題じゃないっすか」
「同年代の犯罪おかしたやつより酷い扱い」
「日本のメディアはバートマン事件も知らんのか」
といった批判の声が出ている。