イスラム圏の一部の国からの入国を制限する大統領令を発動するなど、トランプ米政権による強権発動が広がる中、日本のビジネス界でも警戒感が強まっている。2017年の年明けには国内自動車最大手のトヨタ自動車がトランプ氏によるツイッター攻撃「トランプ砲」を受けたが、「今後は他業界への攻撃も加速していくだろう」との懸念は強い。
トヨタがトランプ砲の標的になったのは、豊田章男社長が建設中のメキシコ工場に絡み、「雇用と地域への責任がある」などとして、建設方針を変えないことを表明した直後だった。トランプ氏は「とんでもないことだ」とトヨタを名指しで批判。「工場は米国に建設しろ。さもなければ多額の関税を支払え」などと迫った。豊田社長はメキシコ工場建設の撤回こそしないものの、攻撃に屈するような形で、米国内に今後5年間で100億ドル(約1兆1600億円)を投資すると表明したのは記憶に新しいところだ。
農産物のほか先端医療や通信、IT、ロボット工学
トランプ氏は、大統領選中から攻撃をしかけてきた米自動車大手フォード・モーターにメキシコ工場計画を撤回させたほか、米空調大手キャリアにはメキシコへの工場移転計画の一部を撤回させるなど、個別企業を名指しで狙い撃ちし、経営判断を変えさせようという姿勢を続けている。ボーイングやロッキード・マーチンには大統領専用機や最新鋭戦闘機などの値下げを迫ったほか、長女イバンカさんの名前をつけたファッションブランド「イバンカ・トランプ」の販売中止を決めた米大手百貨店ノードストロームにも攻撃を仕掛ける始末だ。
日本企業に関しては今のところトヨタに向けた以上の激しい攻撃はみられないが、同じような攻撃が再開され、対象も広がるだろう、との懸念は強い。
多くの経済関係者が「いつかは必ず標的として狙われる」と見ているのが農産物だ。米国の有力畜産団体などはすでに、日本に対し牛肉や豚肉の市場開放を求める声を上げている。米国は世界有数の農業大国であり、「日本に対する最大の狙いは自動車ではなく、農産物を売り込むことではないか」(エコノミスト)との見方もある。
自動車や農産物のほか、ターゲットになりそうな分野として、先端医療や通信、IT、ロボット工学などを挙げる声も多い。「これから成長が見込め、高い利益を期待できる」(経済関係者)からだ。こうした分野は日本の成長戦略とも重なるため、状況次第では、日米間の摩擦に発展する可能性もある。
対処法は?
リスク管理の専門家らは、企業がトランプ政権による攻撃を避けるには、「バッシングされそうな状況はなるべく作らないこと」と強調する。投資先を米国から他国に移したりすれば攻撃対象になりかねない。このため、中長期の投資計画などは慎重に判断し、早まって公表したりしないことが重要だという。
記者会見などでの発言も、慎重にする必要がある。トヨタへの攻撃は、豊田社長のメキシコでの「地域への責任」発言が誘発した可能性があり、「正論であるか、否かは関係ない」と、専門家は指摘する。
さらに、トヨタのように1企業がターゲットにされた場合は、「業界全体に対する攻撃」と考え、業界ぐるみで対応することも必要だという。1企業ではなかなか抵抗できなくても、多くの企業が団結すれば話ぐらいは聞かせる可能性もあるというのだ。ただし、自動車でも、各社で米国現地生産、メキシコでの生産、日本からの輸出のウエートに相当のばらつきがあり、利害が対立することも考えられ、どこまで結束を保てるか、疑問視する声もある。
WTO(世界貿易機関)を無視する方針さえ示されるなど、今までの常識では計れないトランプ政権に向き合うには、これまで以上の慎重な対応と連携こそ重要といえるようだ。