日本人は風呂が大好きだ。まだ寒さが残っているこの時期は、温かいお湯にゆったりつかって、疲れた体をいやしたくなる。
だが、そんな風呂でのひとときが肌へのダメージ要因になる可能性があるという。どうすれば肌にもやさしく風呂に入れるのか、皮膚の専門家である三重大学大学院医学系研究科・皮膚科学教授の水谷仁氏に話を聞いた。
バリア機能を担う成分「セラミド」とは
入浴時は湯船に浸かるのが欠かせないが、実はこの行為そのものに注意だ。長時間お湯につかっていると、肌の一番外側にある角層が膨潤(水分が入り込み膨らんで緩むこと)する。それにより外部から異物が侵入し、水分の蒸発から肌の内部を保護している成分がお湯に溶け出して、いわゆる「肌のバリア機能」が低下してしまう。
すると、外部からの刺激を受けやすくなる。刺激でかゆみを感じ、掻(か)くと肌荒れが悪化し、さらにバリア機能が低下するという悪循環に陥ることもある。
「入浴や水仕事はもちろん、石鹸をつけてゴシゴシこする、アルコールを塗るなど脂分が取れる行為はバリア機能の低下を招き、肌へのダメージを引き起こす可能性があるのです」(水谷教授)
バリア機能を担っている主な成分は「皮脂膜」「天然保湿因子(NMF)」「角質細胞間脂質」の3つだ。名前からもわかるように、皮脂膜と角質細胞間脂質は脂分で構成されている。皮脂膜は、皮脂と汗などが混じりあってできたもので、角質細胞間脂質は「セラミド」という脂質が50%を占めているのだ。
特にセラミドは角質細胞のすき間に整列してバリア機能の要としてなる成分で、水分をしっかりつなぎとめつつ、体表からの水分蒸散量をコントロールしている。つまり、セラミドがあることで乾燥した環境にいても肌がすぐに干上がることはなく、水中でも水が肌から入り込まず、我々は生きられる。
「乾燥してザラザラの肌というのは、角質から皮脂やセラミド、つまり脂分が抜けている状態です。皮膚の防御能を維持するためにも、これらの成分の喪失を防ぐことは大切です」(水谷教授)
つまり、皮脂やセラミドが失われないように入浴し、さらには入浴中や入浴後の保湿が重要になる。水谷教授によると、入浴時のお湯の温度は38~40度くらいの少しぬるめが理想だ。長風呂や熱いお湯が好きなら、保湿効果のある入浴剤などを入れるのがいい。体をゴシゴシと洗うのは厳禁で、弱酸性の石けんやボディソープをよく泡立てて、やさしく洗わなければいけない。
風呂上りにクリームを塗るのが理想的
入浴後の保湿はどうすればいいのか。水谷教授は化粧水などよりも、クリームや乳液を塗るのが理想的だという。
「クリームを塗ると脂分を補うことができます。例えばセラミド入りのクリームを塗れば、肌の表面は皮脂の代わりにクリームの脂分で覆い、中のセラミドを補給できます」(水谷教授)
クリームはベタついて嫌だという人もいるが、必要な分は塗りこめば浸透しているので、肌の表面でベタつく分はウェットティッシュなどで拭き取っていいそうだ。
「大切なのは保湿するタイミングです。風呂上りなど表皮が潤っているうちに保湿すること。時間が経つと目には見えなくても肌が細かく割れてしまいます」(水谷教授)
手の皮膚がヒビ割れなどを起こすと、元に戻るまでに時間がかかった経験がないだろうか。皮膚は割れてしまうとセラミドなどを補充するだけでなく、割れた部分を「治す」必要があるため、回復には時間がかかってしまうのだ。
保湿に使うのは「セラミドケア」、「セラミド成分配合」などと表示された商品がいい。
「セミラドの濃度が濃いほうがよいというデータがありますが、濃度を表示しているメーカーはなかなかないでしょう。消費者が判断するのは難しいですが、信頼できるメーカーのものを選ぶことをおすすめします」(水谷教授)