米原子力事業を巡り7000億円超の巨額損失が発生する見通しとなった東芝が、資金調達のために分社化する半導体事業の株式の売却時期を2017年4月以降に先送りする。当初は3月末までに売却し、17年3月期決算での債務超過を回避する計画だった。しかし、売却を急げば足元を見られて買いたたかれる恐れが高いと判断。債務超過になってでも時間をかけて高値で売却できる企業を選ぶことにした。
東芝は2月24日に開いた取締役会で、4月1日付で半導体事業を分社化することを決定し、発表した。新会社の名称は「東芝メモリ」とし、会社分割して東芝本体にある半導体事業を新会社に引き継がせる。社長には東芝の半導体部門トップを務める成毛康雄副社長が就任。3月30日に開く東芝の臨時株主総会で承認を得る。取締役会では東芝本体の資本増強に向け、新会社の株式の過半を売却することも確認した。
当初、売却株式「20%未満」という条件
東芝は当初、売却株式を20%未満に抑えたいという条件で、2月上旬に売却先を決める1回目の入札を実施した。20%未満としたのは「出資比率が低ければ経営への口出しができないから」(関係者)だ。
しかし、出資比率が20%未満では「金を出すうまみがない」などと応札した企業や投資ファンドから不満の声が噴出していた。さらに、「経営の主導権が取れないなら」と、応札額は想定していた2000億~3000億円に届かず、交渉は難航していた。
そもそも、東芝は3月末での債務超過の回避を至上命題としていた。そのためには3月中に新会社の株式を売却し入金してもらう必要がある。売却する株式を20%未満に抑えようとしたのも、経営の主導権を渡したくないことに加え、独占禁止法に基づく公正取引委員会の審査が必要なく、売却がスピーディに進むと踏んでいたからだ。これが20%以上になると数か月にもわたる審査が入るため、3月末までに売却先を決めるのは不可能。そうなれば債務超過に転落するのが確実だった。
2017年度中には売却を完了する考え
交渉が思惑通りに進まない中、東芝は2月中旬になり、3月末の債務超過回避にこだわらない方針に転換した。自ら期限を切って拙速な交渉を続ければ、「相手に足元を見られて買いたたかれる可能性が高まるだけ」との判断だ。売却する株式を20%未満から過半へと引き上げて時間をかけて相手と交渉することで、債務超過に陥ったとしても有利な条件を引き出し高値で売ることを重視することにした。「過半の売却」は、財務体質の抜本的な立て直しのためとして主取引銀行が強く求めていたことでもある。
この決断に伴い、3月末時点での債務超過は避けられなくなり、東京証券取引所のルールで東証1部から2部に降格することが確実になった。東芝は計画を見直し、3月中に2回目の入札を行い、6月の株主総会までに売却先を決め、2017年度中には売却を完了する考えだ。
ただ、「通常、ファンドは東証1部銘柄を対象にしていることから、2部への降格は、ファンドの投資対象から外れることになる」(証券筋)。欧米の年金基金なども主に東証1部銘柄に投資しており、東芝が2部に降格した時点で、大量の売りが発生するとの見方は強く、これを見越した売りが膨らむ可能性も指摘される。