芥川賞作家の林京子(はやし・きょうこ、本名宮崎京子)さんが2017年2月19日、死去していたことが3月1日、分かった。86歳だった。
各メディアが伝えた。自身の被爆体験をもとに「祭りの場」などを発表、長崎原爆の貴重な証言者として知られ、「8月9日の語り部」と呼ばれることもあった。
「原爆文学」で被爆体験を証言
1930年、長崎市生まれ。父親の赴任先の上海で育った。45年に長崎に戻り、8月9日、学徒動員で働いていた工場で被爆した。
75年、原爆投下後の長崎の人々の苦悩を描いた『祭りの場』で芥川賞を受賞。被爆体験を抑制された内奥の祈りとして語り、「長崎原爆」を証言する貴重な作品として高く評価された。その後、『上海』で女流文学賞、『三界の家』で川端康成文学賞、『やすらかに今はねむり給え』で谷崎潤一郎賞、『長い時間をかけた人間の経験』で野間文芸賞を受賞など、数々の文学賞を受賞している。
世界最初の核実験が行われた米国ニューメキシコ州の「トリニティ・サイト」を訪れるなど、生き残った被爆者として核の問題と向き合い続けた。「九条の会」にも参加した。2005年度の朝日賞を受賞した。
文芸評論家の中には、ノーベル文学賞にふさわしい作家と強く推す声もあった。
水俣の石牟礼道子さんと同じく、20世紀の九州で起きた未曽有の惨事にこだわり、作品を発表し続けた人だった。