世界中で抗生物質(抗菌薬)がほとんど効かない多剤耐性菌(スーパー耐性菌)による死者が急増しているが、世界保健機関(WHO)は2017年2月27日、耐性菌の中でも特に危険な12種類の菌のリストを初めて公表した。
「これらの菌は人類にとって最も危険な病原菌であり、治療の手段が尽きつつある。新たな抗生物質の開発を急ぐとともに、人間や家畜に対して抗生物質を必要以上に使わないでほしい」と各国に警告した。同年2月28日、NHKや共同通信など多くのメディアが報道した。
もともとは人間の口内にいる大人しいヤツ
スーパー耐性菌については、放っておくと2050年には最大で毎年1000万人の死者が出るという報告が2016年5月に英政府研究機関から出されている。同じ月に日本で開かれた主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)では最重要課題として首脳宣言に対策強化が明記された。
NHKなどの報道によると、WHOが公表したリストは、危険性の高さから「危機的」「高度」「中位」の3段階に分かれている。「危機的」の中に挙げられたのは「多剤耐性アシネトバクター」「多剤耐性緑膿(りょくのう)菌」「カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)」の3つの菌だ。国立感染症研究所や厚生労働省などの「多剤耐性菌」に関するウェブサイトをもとに、その恐ろしさと予防方法を紹介しよう。
【多剤耐性アシネトバクター】
アシネトバクターは土壌や河川水などの自然環境中に生息する環境菌で、通常は健康な人に感染しても害を及ぼすことは少ない。ところが、病気などで免疫力が弱くなると、肺炎や傷口の化膿など様々な害を及ぼす。自然環境の中に広がった抗生物質に対し抵抗力を身に着けた多剤耐性アシネトバクターが出現し、多数の死者を出す被害が世界中で起きている。
現在、日本で猛威をふるっている多剤耐性アシネトバクターは、2007~2008年頃に海外から持ち込まれたとみられる。2011年に帝京大学付属病院で46人が院内感染、27人が死亡するなど、院内感染による死者の急増が社会問題になった。多剤耐性アシネトバクターが、特に人工呼吸器のような湿度の高い環境を好むため、集中治療室を中心に院内感染するケースが多い。また、乾燥した環境でも数週間以上生存できるため、患者の皮膚や医療機器、手すりなどの病院施設環境に生息する。汚染された医療器具や医療従事者の手などを通じ、他の患者に伝播する。入院している人を見舞う場合は、病室に入る前後に石鹸で手洗いを行うようにしたい。
【多剤耐性緑膿菌】
緑膿菌もありふれた菌だ。地球上のあらゆる環境にいる常在菌の1つで、湿った環境を好み、人間の口内にもいる。口内に緑膿菌がいる人の割合は健康な人で全体の5~12%だが、害を及ぼすことはほとんどない。ところが、病気で4週間以上入院すると緑膿菌を持つ人が50%以上に増える。
抗生物質に対する耐性を身に着けた多剤耐性緑膿菌は、人間の体内に入るとエンドトキシンという内毒素を血液中に放出する。このため、ショック死したり、多臓器不全を起こしたりして死亡する人が多い。多剤耐性緑膿菌による被害も院内感染が中心だ。もともと常在菌なので湿った環境で繁殖できるうえ、抗菌力を身に着けているため、石けんの中や抗菌消毒液の中、殺菌が不十分な医療材料の中でも繁殖できる。また、医療従事者や介護者の手を通じて、保菌者から別の患者にうつることがある。