スマホを使うほど、学力が低下する――日本小児科医会と日本医師会が、2017年2月15日に発表したポスターのフレーズのひとつだ。スマートフォンが危険なものであるかのような直接的な表現に、ツイッター上などで「言い過ぎでは?」「そんな研究結果があるのか」と、疑問視する声が相次いだ。
なぜ、このようなポスターを制作したのか。作成・監修を行ったという日本小児科医会常任理事で、子どもの心対策委員会の委員を務める内海裕美医師が語る根拠とは。
「視力、学力、脳機能、コミュニケーション能力が低下する」
話題となったポスターは2016年12月に日本小児科医会が作成したもので、1月から同会と日本医師会の会員の医療機関や、希望する教育機関に配布されているという。
その内容は「スマホの時間 わたしは何を失うか」というメインコピーのもと、スマホによって睡眠時間や体力、視力、学力、脳機能、コミュニケーション能力が低下すると記載している。
インターネット上で話題となったのは、学位力低下に関する部分。その根拠として表示されたグラフが、2014年に実施された「全国学力・学習状況調査」の結果を文部科学省が分析し、スマホの利用時間が長いほど算数や国語の平均正答率が低下しているとしたものだったことだ。このグラフはあくまでもスマホ利用時間と正答率が反比例の関係にあることを示しているだけで、「スマホを使うほど、学力が低下する」とは言えない。
このため、ツイッターなどでは、このコピーに同意する声もあったが、
「全国学力・学習状況調査の結果から、関係が読み取れるとは思えない」
「スマホを触りすぎて勉強時間が少なくなれば、当然テストの正答率は悪くなる」
など、ポスターの表現に疑問を抱く意見も相次いだ。
これに対し、内海医師は「因果関係は不明でも、ネガティブな結果をもたらす可能性があるのなら、そのリスクを提示し、注意して使うよう促すべきだと考え、このような表現にした」という。
「断定的な言い方であるという指摘があることは理解していますが、スマホの長時間利用に警鐘を鳴らすポスターである以上、『可能性があります』という表現では意味がないと考えています」
また、2016年に東北大学加齢医学研究所と仙台市教育委員会が発表した研究では、勉強時間に関係なく、スマホを長時間利用していた子どもは偏差値が低下していたとするデータもあり、まったく根拠もなく学力低下を危惧しているわけではないと答えた。
「スマホが危険だから、子どもは持つなと言いたいわけではありません。しかし、大人でもスマホとの適切な関係を考えるのはむずかしいことです。知識や理解が乏しい子どもに利便性や革新性などポジティブな情報だけでなく、ネガティブな情報も提示すべきだと考え作成したポスターなのです」
12年前から続く啓発運動の一環
内海医師は、スマホに限らず勉強でも部活動でも、何かが過剰であることは必ずしもよいことではないと主張する。
「今の子どもたちはスマホに限らず、テレビやゲーム、パソコン、インターネットなどにどの世代よりも早くから密接に触れています。しかし、これらがなければ落ち着かない、すべてをこれらに費やす時間にはしないでほしい。いろいろな経験をしてほしいと考えているのです」
適度な時間だけ使えばよいという意見もあるが、内海医師はそもそもどのくらいが適度なのかわかっていないのが現状だと指摘する。
こうしたメディアの各種機器と子どもの関係を考えていくために、子どもの心対策委員会は2004年から、「子どもはメディアへの接触を1日2時間、ゲームは30分まで」などの具体的な提言を発表。今回のポスターも、12年前から続く啓発運動の一環だという。
「スマホの長時間利用による本当の影響は、長期間の追跡比較研究をしなければわかりません。未来のリスクがわからないのなら、今は慎重に使うべきではないでしょうか」