「日本の安倍首相は、素晴らしい(great)。たいした男(great guy)だ。彼が訪米した時、『ありがとう』と私に言った。『何のこと?』と聞くと、『F35戦闘機の件で、私たちに何百万、何千万ドルも節約させてくれたことです』と答えた。私に会うなり、謝辞を述べた。いいことだ。わかったかい。いいことだ。メディアは私に絶対に感謝しないが、少なくとも日本は私に感謝したんだ。そうだろ?」
フロリダ州メルボルンでの演説(2017年2月18日)でトランプ大統領がこう話すと、熱い支持者たちから声援が沸き起こった。
「日本の首相はトランプの心をつかむ方法を教えてくれた」
ロッキード・マーチン社製の最新鋭ステルス戦闘機F35を、トランプ氏自らの交渉で大幅に値下げさせたことについて、安倍首相が感謝を述べたという。
FOXニュースなど保守派以外のメディアとトランプ氏の対立は、ますます激しさを増している。2月24日には政権に批判的なCNNやニューヨーク・タイムズなどの主要メディアを、定例記者会見から締め出した。
「メディアは敵だが、安倍首相は味方だ」――。そう言わんばかりのトランプ氏。日米首脳会談で両首脳が仲睦まじく19秒間も握手し続ける映像が、アメリカではいろいろな意味で注目されたが、今回の両首脳の関係を、欧米のメディアや専門家はどう評価したか。 安倍氏の態度を、ニュアンスは変わるものの、保守派のFOXニュースも含む多くのメディアが、「flattery」(ほめそやし、お世辞、こびへつらい)という言葉で表現した。
米タイム誌の見出しは、「日本の首相はトランプの心をつかむ方法を教えてくれた。おべっかだ」。トランプ氏のキャンペーン中の日本叩きもあり、同氏が大統領に決まるなり、贈答品として高価なゴルフクラブを携えていち早く会見に駆けつけたと、これまでの経緯に触れ、その成果もあって、今回、トランプ氏から異例の厚遇を受けた。尖閣諸島の防衛への参加を含む日米安全保障の確認と、一層の経済協力を取り付けたとしながら、安倍氏が同氏に取り入る様子を、皮肉を込めたトーンで報じた。
「安倍首相の対トランプ外交はホールインワン」
一方、英BBCは、「安倍首相の対トランプ外交はホールインワン」という見出しで、安倍氏の戦略を評価した。
「安倍氏は、トランプ氏を怒らせずに教育することに成功した」とし、「時に毅然とした態度で、しかも敬意を払いながら、関係を注意深く築いた」ことを専門家の声を交えて紹介。「トランプ新政権とどう向き合っていくか見定めるうえで、各国の首脳や外交官は、安倍氏を手本にできるかもしれない」と好意的に評価した。
産経新聞によると、2016年11月の初会談で安倍氏が、「あなたはニューヨーク・タイムズ(NYT)に徹底的にたたかれた。私もNYTと提携している朝日新聞に徹底的にたたかれた。だが、私は勝った」と話すと、トランプ氏は右手の親指を立てて、「俺も勝った」と答えたという。
これが安倍氏との心の距離を一気に縮め、buddy(仲間)としてハグしたくなるほどの気持ちにさせたのかもしれない。
しかし、安倍首相がうまく主導権を握ったように見えながら、じつはこれまで以上の追従を迫られる可能性を危惧する声もある。
トランプ政権には、予想不可能な要素が多い。米国の内外で、新政権に対する批判も強い。
蜜月関係のアピール後、激動の国際政治の舞台で日米が孤立することなく、実際にどのように協同歩調を取っていくのか。安倍首相の手腕が問われるのは、これからだ。(随時掲載)
++ 岡田光世プロフィール
岡田光世(おかだ みつよ) 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計35万部を超え、2016年12月にシリーズ第7弾となる「ニューヨークの魔法の約束」を出版した。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。