宅配便のドライバー不足が深刻さを増すなか、ヤマト運輸と同社労働組合は、宅配便の荷受量抑制も視野に入れた労働環境の改善に向け、協議入りする。2017年の春季労使交渉で議題にのぼっている。J-CASTニュースの取材に、ヤマト運輸の親会社ヤマトホールディングス(HD)は「そうした提案があったことは事実」と話している。
国土交通省によると、2015年度の宅配便取扱個数は、前年度と比べて1億3114万個(3.6%)増え、37億4493万個だった。このうち、トラック運送は37億447万個と、全体の99.8%を占める。さらに、ヤマト運輸の「宅急便」の取扱個数は17億3126万個(前年度比6.7%増)と、トップシェアを誇っている。
背景に、ネット宅配の「即日」「無料」配送競争
ヤマトHDの広報担当者は2017年2月23日、J‐CASTニュースの取材に対し、労組から提案があったことを認めたうえで「これから協議に入るところです」と説明した。
宅配便をめぐるドライバー不足は、インターネット通販市場の拡大や、それらの担い手による「即日配達」や「無料配送」といった競争の激化によって長時間労働が常態化するなど、劣悪な労働環境が背景にある。
ヤマト運輸労働組合には、ドライバーなど6万481人(2016年10月15日現在)が加入。同組合は2017年春闘で、「働き方改革」の一環として労働環境の改善に向けた抜本的対策を経営側に求めた。
組合側によると、「(一部報道にあった)総量制限や(ネット通販用などの)料金の値上げを求めているわけではありません」と話したうえで、「物流が急激に伸びている一方、物流業界は全体的にドライバーが思うように確保できていません。それによって労働環境が悪化して、時間帯によっては物流が滞ったり、ドライバーが安全に荷物を運べなかったりすることで、かえってお客さまに迷惑をかけることがあります。そういったことがないよう、抜本的な対策が必要ではないかと提案したものです」と説明。ドライバーの労働負荷を高めている再配達や夜間の時間帯指定サービスなどの見直しや、適正な料金でサービスを提供する体制を求めている。
もちろん、取引個数を制限したり料金を値上げしたりすることになれば、それらを理由に客離れを起こしたり、ひいては収益の低下にもつながりかねない。組合側は「(賃金アップとの)両方でいい結果を得られればうれしい」と話すが、賃上げについては定期昇給相当分とベースアップの合計で前年と同じ組合員平均1万1000円(前年の妥結額は5024円)を要求にとどめてもいる。「働き方改革」を優先したようだ。
従業員数、10年前と比べて3割増える
一方、ヤマト運輸はこれまで荷受け量の増加には人員の増強で対応。グループ全体のドライバーを含む従業員数は約20万人で、10年前と比べて3割増えており、「会社側が人員増に取り組んでいることは承知しています」と、労働組合側も理解している。
人員増が会社の収益にも影響し、ヤマト運輸の親会社のヤマトHDは2017年1月末、人手不足による人件費の高騰や外部委託費の増加などを理由に、17年3月期の連結営業利益の予想を、前期比15%減の580億円(従来予想は650億円)に引き下げた。
深刻化するドライバー不足に、思うように人員を確保できない懸念は強まるばかり。ヤマトHDは「人手不足の問題は再配送だけが原因ではありませんし、荷物の多い都市部ほど(人手不足が)深刻になるなど、地域差もあります」と説明。「再配送については、コンビニエンスストアや電鉄会社などと提携して、宅配ロッカーや宅配ボックスの拡充に努めているところです」とも話す。
ヤマトHDの株価は2017年2月24日の終値で、前日比39円50銭高の2493円50銭で引けた。4日続伸で、一時は2454円まで上昇した。日本経済新聞の「宅配総量抑制へ」との報道があった23日には朝から買い気配が強まり、21日と比べて19円高と大幅に上昇。組合側の提案に「会社側も応じる方向」と伝わったことに、好感したようだ。
その一方で、ヤマト運輸に宅配を依存していたネット通販は、痛手だ。たとえば、物流でヤマト運輸への依存度が高い、ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイの株価は2月23日には前日比72円安の2384円。24日も17円安の2367円で引けた。荷受量の増加が抑えられた場合は、「ZOZOTOWN」の成長にも影響があるとみられたためのようだ。