北朝鮮の金正男(キム・ジョンナム)氏(45)の暗殺事件をめぐり、マレーシア警察は2017年2月22日に開いた会見で、正男氏は実行犯の女から毒物を顔に塗りつけられたことが原因で死亡したとの見方を示した。
犯行は「素手」で行われたという。では、なぜ猛毒を手につけた実行犯は生き残ることができたのか。この点は北朝鮮も疑問点として指摘しており、大きな謎として残っている。
実行犯は北朝鮮人容疑者から「毒物を手にぬりつけられる」
マレーシア警察のカリド・アブ・バカル長官は記者会見で、実行犯の女2人は、すでに北朝鮮に帰国している北朝鮮人の容疑者の男から液状の物体を手に塗りつけられ、その手で正男氏の顔を覆って犯行に及んだと説明した。
実行犯が手袋をしていたどうかを確認する記者の質問には、
「素手だった。我々の捜査で、何回か練習を重ねていたことも分かった」
「計画的犯行で、訓練を受けていたと確信している。単なる撮影や遊びではない」
などと話した。
実行犯は、防犯カメラの映像から、犯行後すぐにトイレに向かったことが明らかになっている。バカル氏はこの点について、
「毒物だということはよく理解していたはずだ。だから手を洗いに行かざるを得なかった」
と述べた。
だが、こうした説明を疑問視する声も出ている。韓国の朝鮮日報によると、国立科学捜査研究院に勤務した経験がある医師は、
「毒物は酸性でも腐食物でもない」
とみており、
「手に無害で、顔になすりつけたら死ぬような毒物は聞いたことがない」
と困惑気味だ。
毒物の揮発性が高ければ実行犯も被害受ける
毒物の揮発性が高ければ、正男氏が吸い込んで死亡する一方で、皮膚にはその痕跡は残りにくい。ただ、これでは実行犯や周辺の人も被害を受ける可能性は高い。
この医師は、
「もし完全に新しい化合物が作り出されたり、すでに存在するものを組み合わせて毒物が生成されていたりしたとすれば、警察は痕跡を見つけるのが難しいだろう」
と話したという。
この点は北朝鮮側も指摘している。朝鮮中央通信はマレーシア側の対応を非難する記事を2月23日に配信。マレーシア側の対応の矛盾点を指摘する中で、
「さらに、とてつもないのは殺人容疑者が陳述したという『手のひらに搾り落とした油のような液体を頭に塗ってやった』ので死者が毒殺されたというが、手につけた女性は生きており、それを塗られた人は死ぬというそのような毒薬がどこにあるかということである」
と主張している。
マレーシアの中国紙などによると、マレーシア警察は捜査員をマカオに派遣し、現地の国際刑事警察機構(ICPO)担当官と協力して正男氏の遺族からDNAサンプルを採取する計画だ。仮にサンプルが採取できれば、少なくとも正男氏の医学的な身元確認作業は進展することになる。