北朝鮮の金正男(キム・ジョンナム)氏(45)の暗殺をめぐり、マレーシア当局の説明が「後退」している。
暗殺から3日後の2017年2月16日に副首相が開いた会見では、死亡した男性が正男氏だと断定していたが、解剖後の2月21日に開いた会見では、保健省高官が「親族の協力が得られていない」などとして身元は特定されていないと説明を一転させた。副首相は16日の段階では、「DNAから(身元を)確認したのか」という記者の質問には直接答えずに、「書類」が身元確認の根拠だと説明していた。
「本物」の「覆面用」パスポート?
暗殺から3日後の2月16日の記者会見で、マレーシアのアフマド・ザヒド・ハミディ副首相は、記者が
「彼(死亡した北朝鮮人)の身元が金正男氏だと確認したということか」
と念を押したのに対して、
「そうだ(Certainly)」
と明言。
「DNAから?解剖から?」
と根拠を問う質問には、
「パスポートからだ。北朝鮮大使館から提供された書類と比較した」
と応じていた。正男氏は、死亡時には「キム・チョル」名義のパスポートを持っていた。ハハミディ氏によると、偽造パスポートの可能性も調べたといい、
「彼は2つの違う身分を持っているのだろう。おそらく、これは覆面用(undercover document)だが、本物のパスポートだ」
「現時点では一つの身元を確認済みだ。なお調査中だ」
などと説明。北朝鮮が正男氏に対して、「キム・チョル」の名義でも「本物」の「覆面用」パスポートを発給していた可能性を指摘した。死因については
「警察が確認し、声明を出すだろう」
とのみ述べ、踏み込まなかった。
菅義偉官房長官は2月16日午後の記者会見で、
「政府としては、マレーシア政府の発表をそのまま受け止めている」
と述べ、日本政府としても、正男氏が殺害されたとの認識を示していた。
死因の特定もできていない
ところが、マレーシア保健省のヌール・ヒシャム・アブドラ事務次官が2月21日に開いた記者会見で、親族の協力が得られていないため、身元の特定には至っていないと説明。これまでのマレーシア政府の説明が後退した形だ。
アブドラ氏によると、解剖は2月15日に6時間にわたって行われたが、アブドラ氏は
「法医学的なサンプルは、解剖終了後すぐに警察の捜査担当者に引き渡されており、分析のために、認定された研究所に送られるだろう」
「この分析は遺体の身元特定のために行われるもので、死因は現時点では分からない」
などと述べ、死因解明には至っていないと説明。さらに、「DNA標本、指紋、歯型はある」が、遺族からの連絡や大使館からの記録の提供がないため、
「これら(特定作業)はすべて進んでおらず、分析もまだだ」
と話した。これに加えて、刺し傷や、針で刺したようなあとも確認できない、とした。 北朝鮮のカン・チョル大使が
「マレーシア側が死因は心臓発作だと伝えてきた」
などと主張していることについても、「証拠がない」と述べ、現時点では死因は特定できないとの立場を繰り返した。
カン大使は、死亡したのは金正男氏ではなく、あくまで北朝鮮の外交旅券を持つ「キム・チョル」氏だと主張し、遺体の引き渡しを求めている。