米原子力発電事業での巨額損失を理由に、2017年2月14日に予定していた16年4~12月期連結決算の発表を延期した東芝の株価が急落するなか、2月21日付の米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)日本版サイトが「今が買い時」と報じた。
米原発事業で発生する損失額が7125億円。この損失処理で16年4~12月期の連結最終損益が4999億円の赤字になり、株主資本は16年12月末時点で1912億円の債務超過に陥った。さらに「虎の子」の半導体事業の分社化に伴う株式売却と、「生き残り」すら懸念されているにもかかわらず、だ。
16年12月から6割超も暴落
東芝株は2017年2月21日、前日比2円60銭(1.4%)安の183円70銭で引けた。決算発表の延期が伝えられた2月14日(229円80銭)から、46円10銭(20%)も急落した。
不適切会計が発覚する前の2015年5月までの株価は500円台で推移。その後も白物家電事業や医療事業の売却が発表されるとズルズルと値下がりし、年初来高値の475円を付けた16年12月15日からは、291円30銭(61.3%)もの下落と散々だ。しかも、主力事業の一つと目された原発事業で躓き、分社化による株式売却で債務超過を回避しようと試みた、頼みの半導体事業も「主導権」を失うような事態に陥った。
メディアも連日、「東芝、上場廃止に現実味」「東芝株、暴落」「金融機関に支援要請」などの報道が飛び交っている。
東芝の深刻な事態に、デイトレーダーなどの株取引に精通した、熱心な個人投資家ならいざ知らず、いくら株価が下がっているとはいえ、現時点で「買い」に走るのはかなり危険ではないかと判断してもおかしくない。
ところが、そんな東芝株をウォール・ストリート・ジャーナル日本版は、「今が買い時」と報じている。東芝の株価が急落。「東芝株の先週末(2月17日)終値は184円と、約1年ぶりの安値となった。とはいえ、この底値から50%上昇する可能性もあり、メモリー事業だけでも現在の時価総額である77億ドルの2倍の価値がある」と伝えた。
たしかに東芝の半導体事業は、同社が「成長戦略の中核」と位置付けていただけに、魅力的かつ有望といえる。半導体事業、なかでも3次元(3D)構造のNAND型フラッシュメモリーは、スマートフォンなどの記憶媒体として使われるほか、IOT(モノのインターネット)やAI(人工知能)などにも使える。大きな需要が見込めるうえ、東芝のこの分野の競争力は世界的に高い。
2016年7月には、三重県の四日市工場に3D専用の新製造棟を完成させ、本格量産の体制を整えてもいる。今がまさに正念場。「ここを乗り越えれば...」との見方もできないことはない。
粉飾決算のオリンパス株は約10倍に値上がり
とはいえ、東芝株がさらに下落するリスクがないわけではない。上場廃止の可能性もあるが、なにより東芝自身が存続可能なのかどうかだ。ある個人投資家は、「半導体事業そのものは、スマホのほか、最近はクルマにも搭載されるなど、まだまだ多くの需要が見込めそうです。誰もが『残しておきたい』と思うでしょうが、その残し方が問題。たとえば、かつてのカネボウやJAL(日本航空)のような再生の仕方も考えられますが、そのとき、株式は一たん紙くずになりますから」と話し、「安いからといって、買いたい銘柄ではないですね」と言い切る。
経営破たんしないまでも、2016年3月に鴻海(ホンハイ)精密工業に買収されたシャープのように、株式売却に時間がかかり、その間にジワジワと株価が下落する可能性もないとはいえない。
当面の運転資金を早く確保したい東芝にとって、「買い手優位」な状況にあるのだから、シャープの二の舞に陥って、半導体事業が買い叩かれる懸念がないわけではない。経営再建の道のりはなかなか厳しく、現時点で悪材料が出尽くしたとは言いきれない。
ちなみに、オリンパスのように不祥事がひと段落したのち、株価が一気に回復する可能性がないともいえない。オリンパスは2011年11月に粉飾決算を認め、株価は一時424円まで急落。しかし、その後株価は上昇。アベノミクス効果もあって2016年2月には5000円近くに達した。2017年2月21日の終値は前日比30円高の3970円。急落時に買っておけば、約10倍もの値上がり益を得ることができたことになる。ただ、東芝がどういう道をたどるかは、不透明だ。