手術中に自ら医療用麻薬を打っていたという群馬県太田市在住の医師の男(36)が埼玉県警に逮捕され、ネット上で「正気か!?」「恐ろしい」と驚きの声が上がっている。
医師が自ら医療用麻薬を使って逮捕されるケースは、ここ10年で横浜や北海道などで4件ほど報じられている。しかし、いずれも自宅など病院外で使っているのがほとんどだ。
看護師に偶然目撃されて事件が発覚
今回については、「手術中に使うのは珍しい」「考えられない」との声が捜査や病院の関係者から出ている。
容疑者の男は、東京都内の医師紹介会社に麻酔医として登録し、2017年2月3日は、埼玉県行田市内の病院に非常勤の医師として派遣されていた。
男はこの日、70代男性の手術を担当し、埼玉県警の薬物銃器対策課がJ-CASTニュースの21日の取材に答えたところによると、手術では、執刀医2人と看護師らが手術台に向き合っていた。男は、麻酔に使う2種類の医療用麻薬を病院の金庫から取り出し、うち1つのレミフェンタニルの粉末をビンに入れて生理食塩水に溶かした。
そして、注射器でこの液体を抜き取って、手術台には背を向ける形で、自分に注射した。ところが、手術室から用事で出て戻ってきた女性看護師にそれを目撃されてしまった。看護師は騒がずに、そのまま手術は無事に終わり、患者に影響はなかったという。
その後、看護師が院長に報告し、院長が男を呼んで事情を聴くと、男は「やりました」と答えた。院長が行田署に通報して、駆け付けた署員が男の使った注射器を押収した。署員が追及すると、男は「まだ持っています」と明かし、男の案内で更衣室に行くと、ロッカーに入れた男のショルダーバッグから別の注射器が見つかった。中の液体6.6グラムを鑑定したところ、17日になって、もう1種類のフェンタニルが検出された。
スキがあったため、我慢できずに?
このことを受けて、埼玉県警では、2月18日に容疑者の男を麻薬取締法違反(所持)の疑いで逮捕し、20日にさいたま地検に送検して報道発表した。男については、捜査を続けている。
男は、警察が駆け付けたときに、意識がもうろうとした状態だったが、薬物銃器対策課では、それは手術後に病院内でもう一度、麻薬を打っていたためではないかとみている。注射器をカバンにしまって病院内のトイレに持ち出して使った形跡があり、このときはフェンタニルの方だったらしい。
犯行の動機については、男は、「ストレス解消のためにやった」と供述しており、「今まで20回くらい抜き取った」とも話していたという。非常勤麻酔医の仕事は、医師不足から高い報酬が得られる反面、緊急に呼ばれたり麻酔の扱いに神経を使ったり重労働だとされる。過去の事件では、仕事のほか家族のストレスも動機に挙げられていたが、今回については、まだよく分かっていないという。
手術中にまで麻薬を使っていた理由については、スキがあったため、我慢できずにしてしまった可能性があるというが、今後男から詳しく事情を聴くことにしている。
医療用麻薬の扱いについて、ある総合病院の事務長は、取材にこう話す。
「普段は金庫で厳重に管理しており、使わない分や捨てる分も記録にしています。しかし、麻酔医は、職人みたいな存在ですので、使う量や種類はまちまちで、よほどおかしくないとそれだけでは抜き取ったか分かりません。手術では、6、7人の医師や看護師が立ち合いますが、抜き取ったかは横に張り付いてでもいないと見つけるのは難しいですね。もともと医療現場は、信頼関係で成り立っているという面もありますし」