トランプ米大統領が、スウェーデンで「昨晩」にテロが起きたと言ったように受け取れる演説をし、波紋を呼んでいる。実際にはテロは起きておらず、スウェーデン在米大使館が米政府に説明を求める事態にまで発展した。日本の国内メディアも、発言とその余波を報じている。
日頃、一部の友好的な社を除き、メディアの事を「偽(フェイク)ニュースだ」と批判しているトランプ氏。今回の発言について、のちにツイッターで「釈明」したが、メディアの中には「ネットで嘲笑」「トランプ氏 偽ニュース発信?」などと皮肉な見出しをつけて伝える社もあった。
最近のテロ発生都市名を列挙して
トランプ氏は2017年2月18日(現地時間)、フロリダ州であった集会で演説した。問題の発言部分は、動画つきで報じるメディアも多く、その内容を確認できる。トランプ氏が、「我々の国を安全に保つ」などと訴えると、聴衆は拍手喝采していた。その後、
「ドイツで起きている事を見ましたね。スウェーデンで昨夜、起きた事を見ましたね。スウェーデン!誰がこれを信じられるか、スウェーデンで」
と、2016年末にトラックが市場に突っ込むテロが起きたドイツを挙げた後、スウェーデンを3回も引用した。その後も、近年にテロ事件が起きた、ブリュッセル(2016年3月)、ニース(2016年7月)、パリ(2015年11月)の都市名を列挙した。
しかし、スウェーデンでは、多くの難民を受け入れているが、「昨夜」を含め、少なくとも近年ではテロ事件は起きていない。北欧では、2011年にノルウェーで政府庁舎爆破などのテロが起きているが、スウェーデンは関係ない。
今回のトランプ発言に驚いたスウェーデンの在米大使館はツイッターで、
「大統領が何の事を言っているのか、分からない。米政府に説明を求めた」
と発信した。スウェーデン元首相・元外相のカール・ビルト氏もツイッターで
「スウェーデン?テロ?彼は何を吸っているのだ?意味が分からない」
と過激な表現を交え、不満を表明した。
トランプ氏は19日になって、自身の発言について
「FOXテレビで放送された移民とスウェーデンに関するニュースについてのものだった」
と釈明。ホワイトハウスも、トランプ氏発言は、スウェーデンで一般的に犯罪が増えている事を指摘したものだと説明した。実際、演説の「昨晩」にFOXニュースが流した番組では、産経新聞(ネット版、20日)などによると、難民受け入れに伴い、スウェーデンで銃犯罪などが増える傾向にあると紹介したものだった。
毎日新聞「トランプ氏 偽ニュース発信?」
こうした一連の騒動は、多くのメディアが報じた。米CNN(日本語ネット版)は「トランプ氏発言が波紋呼ぶ」と伝えた。ニューヨーク・タイムズも「スウェーデンの反応は、困惑、怒り、嘲り」などと紹介している。
スウェーデン語版グーグルニュースのトップページをみると、2月20日昼(日本時間)現在で、最上部にトランプ発言関連ニュースが並んでおり、著名夕刊紙「エクスプレッセン」(ネット版)も、動画付きで同発言やスウェーデンの在米大使館の対応ぶりなどを報じている。昨夜は悪天候で道路が封鎖された、これがスウェーデンで起きたことだ、とのニュースを流したメディアもある。
また、世界的な通信社AFPの見出し(日本語版)は「トランプ氏の勘違い発言にネットで嘲笑」。仏ル・モンド(ネット版)は「ドナルド・トランプがスウェーデンのテロ行為を発明(invente)するとき」と見出しをつけた。
日本国内でも、NHKや共同通信、産経新聞などが報じたほか、毎日新聞(ネット版)は、「トランプ氏 偽ニュース発信? 『スウェーデンでテロ』」の見出しで、「メディアが『フェイク(偽)ニュース』を流していると批判するトランプ氏だが、低迷する支持率を回復するため、自ら『フェイクニュース』を発信した可能性がある」との分析も披露した。
ツイッターで大喜利状態
トランプ氏発言は、SNSでも大きな注目を集め、ツイッターでは「#LastNightInSweeden」(昨夜スウェーデンで)などのハッシュタグでつぶやく人が続出した。スウェーデンの「エクスプレッセン」(ネット版)などによると、スウェーデン名物のミートボールをネタに使い、「(昨夜)大規模なミートボールの盗難があった」といったツイートも出た。他にも「私の息子はキャンプファイヤーでホットドッグを落とした」「イケア家具を組み立てた」など、「昨夜スウェーデンで起きた事」ネタを投稿し、トランプ氏を皮肉っていた。
トランプ氏は、就任後初となる単独記者会見を16日(現地時間)に開いたばかり。この際にも、メディアに対し「フェイク(偽)ニュースだ」と批判を大展開し、約75分間、自身の実績を強調した。テレビ東京(ネット版)は「初の単独会見 トランプ大統領がメディア批判の独演会」の見出しで報じた。トランプ氏は以前から、「事実誤認の発言」がメディアに指摘されており、アメリカの暴力犯罪件数や雇用などについて、統計上の数値傾向とは異なる主張をしている、などと報じられてきた。
トランプ政権では、ケリーアン・コンウェイ大統領顧問が「もうひとつの事実(代替的な事実、alternative facts)」という言葉を使い、批判を含め様々な注目を集めたこともある。