短距離の「ちょい乗り」を増やすため、東京都心部(23区と武蔵野市、三鷹市)で2017年1月30日、タクシー初乗り運賃が従来の2キロ730円から1.052キロ410円に引き下げられ、早くも一定の効果が確認されたようだ。
石井啓一・国土交通相は2月10日の閣議後記者会見で、新運賃導入後5日間(1月30日~2月3日)のサンプル調査で、730円以下の利用回数が導入前に比べて約9%増加し、410円(1.052キロ以内)の利用回数は約23%増えたと明らかにした。しかし、今回の運賃見直しは6キロ以上の利用で値上げとなる。果たしてタクシー利用者には歓迎されるのだろうか?
「ちょい乗り」の利用回数が約2割増えた
今回の調査は国交省が新運賃導入後5日間の約17万回の東京都心部の運送を、導入前1週間(1月23日~27日)の実績と比較した。旧運賃に410円は存在しないが、タクシーには1.052キロ以内の走行データが残っているため、今回の調査が可能となった。「ちょい乗り」の利用回数が約2割増えたことから、石井国交相は「新しい運賃により、訪日外国人や高齢者を始めとする利用者が短距離でもタクシーが使いやすくなるとともに、タクシー需要の喚起にもつながることを期待している」と述べた。
問題は値下げと値上げが同居する今回のタクシーの運賃見直しが、石井国交相の期待通りになるかどうかだ。
これまでの旧運賃は、初乗り区間を越えると280メートルごとに90円が加算されたが、新運賃は237メートルごとに80円の加算となった。このほか、時速10キロ以下の「時間距離併用制運賃」も見直され、「105秒ごと90円」が「90秒ごと80円」になるなど、運賃体系が大幅に変わった。このため、表のように、約2キロまでは値下げとなったが、約2キロから約6.5キロまでは値下げと値上げの場合があり、約6.5キロ以上は値上げとなった。
そもそもタクシー運賃は、どのように決まるのか。東京都心部や政令指定都市、県庁所在地など供給過剰な都市部のタクシー運賃は、全国98ブロックごとに運賃幅が決まっている。新規参入や増車は認められず、運賃は国土交通相が物価などを勘案して上限と下限を指定し、タクシー事業者はその範囲で運賃を選択し、届け出る仕組みになっている。
「中長距離の利用が減ったためか、売り上げが減った」の声も
この上限と下限は変更が可能だ。そのブロックの総車両台数の7割を超えるタクシー会社が運賃幅の変更を申請すれば、国交省が審査し、消費者庁と協議して改定することができる。東京都心部は最大手の日本交通はじめ車両数の8割を超えるタクシー会社が初乗り運賃の引き下げを求め、今回の引き下げが実現した。
全国的に初乗りの距離は短くなる傾向にあるが、短くしても運賃を据え置く「実質値上げ」が主流となっている。今回の東京都心部は2キロ未満なら値下げとなる仕組みで、全国でも異例の試みだ。全国の主要都市の初乗りは600円台が大半で、東京都心の初乗り410円は沖縄県の離島などを除けば全国最安値だ。
今回、国交省は2キロ以上の利用については調べていないため、730円以上の利用がどう変化したのかは分からない。東京都心のタクシーの平均乗車距離は4キロで、走行距離や速度によって値下げになる場合もあれば値上げになる場合もある。
東京都内のタクシー大手の間でも、「ちょい乗り」が増えたという声がある一方、「ちょい乗りはさほど増えず、中長距離の利用が減ったためか、売り上げが減った」という声もある。今回の運賃の見直しは、タクシー会社が「ちょい乗り」増加による減収分を長距離利用者による増収分で補うよう設計したが、売り上げが減るようであれば、競争が激しいタクシー業界にとっては死活問題だ。
運賃改定の効果は短期間で評価することは難しいため、国交省は3月以降に定期的に輸送実績を集計し、見直し効果を検証するという。果たして今回の運賃見直しは利用者にどう評価されるのか。今後の調査が注目される。