補聴器をつけている人と会話する時に「もしあなたがマスクをしていたら、マスクをずらして、唇が見えるようにして頂きたいのです」。耳が不自由な人から新聞に、こんな投書が寄せられた。相手の唇の動きを読んで、話した内容を理解しようとするためだという。
風邪やインフルエンザ、花粉対策でもマスクをつける季節だが、聴覚障害者とコミュニケーションを図る際には気を配りたい。
「あなたの『唇』が見えるようにしてください」
投書は2017年2月7日の朝日新聞朝刊に「聴覚障害者には唇見せて」の見出しで掲載された。投書者自身が、耳に接して話さなければ言葉を理解できない「聴覚障害4級」で、両耳に補聴器をつけて生活している。主に接客業の人に向けて、相手が補聴器をつけている場合にはマスクをずらして話してもらえると助かると理解を求めた。
実はこの人物、3週間前の1月17日にツイッターで同様の訴えをしていた。「極楽寺坂・みどり」というユーザー名で、「『接客』を仕事にしている皆さんへ。相手が補聴器をしていたら、もしあなたがマスクをしているならマスクをずらして、あなたの『唇』が見えるようにしてください。聴こえの不自由な人は、あなたの唇の動きを読んで話の内容を理解しているんです(私も)。ぜひお願いします」と書いていた。投書が新聞紙面に掲載された2月7日には、「こないだこのTL(タイムライン)でつぶやいたことを新聞に投書してみたら、掲載されました」と、掲載面を撮影した写真とともにつぶやくと、3万回以上リツイートがあった。
J-CASTヘルスケアが、極楽寺坂・みどりさんにツイッターのダイレクトメッセージを通して取材すると、こう明かしてくれた。
「3~4年ほど前から『マスクをする人が増えたな~』と思うようになり、同時に『マスクをしたままで話をされると、聞き取りづらいな』と感じたので、投書してみた次第です」
約30年前に補聴器を使い始め、2006年に障害者の認定を受けたという。1年前に病気で入院した時、「その病院の医師や看護師さんたちが、私の補聴器に気が付くと、さっとマスクをずらして口元が見えるようにしてくれたのです。すると、そのほうが話が聞き取りやすいということに気がついたのだと思います」という。ただ、「『読唇術』のような技術を習ったことはありません」。
話しかける時は正面からゆっくりと
耳が不自由な人は、さまざまな手段を用いてコミュニケーションを取っている。一般財団法人・全日本ろうあ連盟にメールで取材したところ、こう答えた。
「聴覚障害者の聞こえ方は、千差万別です。私たちろう者は、主に『手話』を言語としてコミュニケーションをとっています。手話でのコミュニケーションは手だけではなく、顔の表情、口の形、眉の動きなどで意味をつけています。また、残存聴力がある難聴者は、補聴器に加えて筆談や文字情報などの手段を活用しています。手話、筆談、口話以外の手段としては、空間に文字を書く『空文字』、日本語のかなを指で表現する『指文字』、身振り、アプリやパソコンでの文字入力などがあります」
会話の時、マスクは外した方がよいかと尋ねると、
「聞こえない、聞こえにくい人にとっては、マスクをとってもらうと一般的にコミュニケーションがとりやすくなります」
という。また、マスク以外にどのような点に留意するとスムーズにコミュニケーションが取れるかを聞くと、次のような答えだった。
「お店でよく使う会話の例やメニューを指差しで使う『コミュニケーション支援ボード』を用意するとよいです。マスクをつけたままで対応する場合は、口が見えるような透明なマスクを使う方法が考えられます。また、1対1のコミュニケーション以上に大変なのは1対多人数のコミュニケーションです。聞こえない人がわかるように発言者が手をあげる、通訳が終わるタイミングを確認して発言する等の配慮が必要になります」
聴覚障害は外見上分かりづらくもある。どうすれば見分けられるか、また、耳が不自由な人と接する際に配慮できる点があるかを尋ねると、こう回答があった。
「外見からは『聞こえない』ことを見分けることはできません。話しかけたり、後ろからの音に反応がなければ、『もしかしたら聞こえないのかも』と考えてみてください。話しかけるときは、できるだけ正面から、ゆっくり話してください。身振りや筆談等も交えるとなおよいです。手話だと円滑にコミュニケーションをとれる方もいますので、簡単な手話を覚えてみるのもよいです」