北朝鮮の故・金正日総書記の長男で、金正恩朝鮮労働党委員長の兄である金正男氏がマレーシアで殺害され、韓国が騒然となっている。韓国の情報機関にあたる国家情報院(国情院)は北朝鮮政府の関与を断定。これをうけて、韓国メディアは北朝鮮に対し、一斉に非難の言葉を浴びせかけた。
一方、殺害手法や殺害犯とされる女をめぐっては、憶測を交えた報道が飛び交う状況となっている。
韓国紙「金正恩政権の狂気の一端を示す事件」
これまでの現地報道などを総合すると、金正男氏は17年2月13日、マレーシアのクアラルンプール国際空港のLCC専用ターミナル(KLIA2)で女2人に毒殺されたという。現地紙の「ザ・スター」(電子版)によると、正男氏はマカオ行きの便に乗る予定だったという。
事件が起こったのは、出発の1時間前。正男氏は「液体を顔に飛ばされた」と搭乗カウンターに助けを求め、空港近くのプトラジャヤ病院へすぐ搬送されたが、搬送途中に亡くなった。なお、マレーシア当局は北朝鮮大使館から遺体を引き渡すよう求められているものの、遺体の解剖を優先する意向を示したという。
韓国国情院は2月15日の会見で、北朝鮮政府の関与と断定。同時に、北朝鮮が5年前から正男氏の暗殺を試みていたこと、異母弟で朝鮮労働党委員長の金正恩氏に対し正男氏が「殺さないで」と懇願する手紙を送っていたこと、中国政府が正男氏とその家族を保護していたことを明らかにした。
韓国メディアも国情院の発表に基づき、社説で「金正恩政権の狂気の一端を示す事件」(朝鮮日報日本語版、以下引用部すべて15日報道)、「北朝鮮には最小限の人権さえ無いことを改めて示した」(文化日報)、「恐怖政治がどこまで続くのか分からない」(中央日報日本語版)と北朝鮮を一斉非難した。
とりわけ朝鮮日報は「正男氏の息子、キム・ハンソル氏も命を狙われる」「(北朝鮮)政権内部の反体制勢力が正男氏と連携していた」といった報道を展開しているほか、複数の韓国紙が、正男氏が韓国への亡命の意向を持っていたため、これを阻止するために暗殺した可能性があるとの見方を示している。
関与女性2人は北朝鮮人?ベトナム人?
一方、殺害手法や女のプロフィール、足取りについては、様々な観測に基づく報道が乱れ飛んでいる。
韓国のSBSテレビによると「スプレーで毒液を吹きかけられた」、ハンギョレ新聞によると「毒針を刺された」。国民日報は「女2人が『マッサージをしてあげる』と正男氏に近づき、正男氏の腕に針を刺した」と報じるなど、殺害方法に関する報道もバラバラだ。
また、韓国メディアの多くが、殺害にかかわったとされる女2人を北朝鮮偵察総局に所属する工作員だと断定する一方、マレーシアの現地紙「東方日報」(電子版)はベトナム人だとしている。
女の足取りについても、「タクシーでその場から立ち去った」と伝える韓国メディアに対し、日本のメディアの中には、政府関係者の話として「すでに死亡している」と伝えたところもある。
なお、15日17時の時点で、北朝鮮政府から正男氏死去に関する声明などは出ていない。