安倍晋三首相の訪米でトランプ大統領との「蜜月」ぶりがクローズアップされる中、難民の一時受け入れ停止やイスラム圏7か国の国民の入国禁止を軸にした大統領令について、安倍首相がコメントしない姿勢を貫いていることに野党から疑問の声が相次いでいる。
日米以外の主要国首脳会議(G7)からは、大統領令を疑問視する声が相次いでいるからだ。民進党の野田佳彦幹事長(前首相)は2017年2月13日の定例会見で、「ドラえもん」に出てくるジャイアンに媚びる姿を念頭に、「完全にスネ夫君になった」と皮肉った。
「のび太君は、びびりながらも、ものを言うことありますよね?」
野田氏は会見で、日米首脳の信頼関係は重要だとしながらも、英国やドイツは
「自由や民主主義、人権であるとか基本的な価値観を共有できるかどうかを探っている途中」
だと指摘。その上で、
「そこの議論をちゃんとやったかも分からない中で、余りにも間合いを詰め過ぎるということは、詰めたことによるリスクが、これから出てくるのではないか」
と懸念を示した。同じ会見の中で、野田氏は
「米国の人たちは、あるいは国際社会は、ドラえもんは見たことないかも知れませんけど、(ドイツの)メルケル(首相)とか(英国)メイ(首相)とかね、しずかちゃんは、毅然としてもの言ってるんですよ。日本はスネ夫になるか、のび太になるか。のび太君は、びびりながらも、ものを言うことありますよね?今回、完全にスネ夫君になった、と思われるんじゃないでしょうかね」
とも述べた。
安倍首相「親密な関係をつくり、それを世界に示していく」
2月7日付の日経新聞のコラム「大機小機」には、
「トランプ米大統領の言動に、漫画『ドラえもん』に出てくるジャイアンの姿が重なる」
とある。作品中の「お前のものはおれのもの、おれのものはおれのもの」という言葉が「ジャイアニズム」として受け止められることが多い。野田首相は、ジャイアンに媚びるスネ夫の姿を安倍首相に重ねたようだ。
2月14日の衆院予算委員会でも、民進党の前原誠司元外相は、
「こういう『アンチ』も多い大統領と親密な関係になるということは、合わせて安倍総理にも厳しい目が向けられる」
と、野田氏と同様の懸念を示したが、安倍首相は
「日本は安全保障環境が厳しくなっている中にある」
などとして、
「日本の首相としては、トランプ大統領と親密な関係をしっかりとつくり、そしてそれを世界に示していく。それしか私は選択肢はないと思っている」
と言い切った。
カナダ首相はトランプ氏の横で「移民や難民に開かれた政策を模索し続ける」
日本以外の首脳は、どういう対応を見せているのか。
トランプ氏が大統領就任後に電話ではなく直接会談したG7首脳は、英国のメイ首相、安倍首相、カナダのトルドー首相の3人。
メイ首相は、1月27日の共同会見では直接的な大統領令批判を口にすることはなかったが、帰国後の2月1日の下院での答弁で、トランプ氏の政策が「敵対関係を生む」として「間違っている」と述べた。
2月13日に行われたトランプ大統領とトルドー首相の共同会見では、トランプ氏が「悪い連中を追い出す」と主張する横で、トレドー氏は
「国民の安全を守ることはカナダ政府の基本的な責任」
と前置きをしながらも、
「同時に、安全を損なうことなく、移民や難民に開かれた政策を模索し続ける」
と念を押した。
これに対して2月10日のトランプ大統領と安倍首相の共同会見では、安倍首相は質問に対して
「日本は日本の役割を、今まで果たしてきた。これからも世界とともに協力して日本の果たすべき役割、責任を果たしていきたい。それぞれの国が行っている入国管理、難民政策、移民政策については、その国の内政問題なので、コメントすることは差し控えたい」
とコメントしなかった。共同会見を開いた3人の中では、安倍首相の対応が際立っていると言えそうだ。
G7の残る3か国の首脳も、総じて大統領令には否定的だ。フランスメディアによると、オランド大統領は1月28日の電話会談で、トランプ大統領に対して「難民受け入れという民主主義社会の原則」を守るように求めた。ドイツのメルケル首相は1月30日の会見で、
「テロとの戦いは必要だが、だからといって、特定の信仰を人々、今回はイスラム教徒や特定の国出身であることを理由に、彼ら全体に対して疑いをかけることは正当化できない。こういった考え方は、国際的に難民を支援・協力する基本原則がある、という私の解釈とは相容れない」
と強く批判。イタリアのジェンティローニ首相は1月30日、
「開かれた社会と複数のアイデンティティー。差別がないこと。これらが欧州の柱だ」
とツイートしている。