【すくすく子育て】(Eテレ)2017年2月4日放送
「はじめての友達」
子どもが歩けるようになって行動範囲が広がると、そろそろ遊び相手を作ってあげたいと思う親は少なくないだろう。でも、友達ってどうやって作ったらいいのか?そもそも1歳から友達は必要なのだろうか?
番組では、子どもの友達作りについての様々な疑問に、白梅学園大学の汐見稔幸学長と青山学院大学の坂上裕子准教授が答えた。
保育園の子と幼稚園の子の社会性に差はなし
東京都の森田敦子さんは、匠くん(1歳1か月)に友達を作りたいと、週に1回は近所の子育て広場へ出向いている。
匠くんはまだ話せないので、ママが他の子に「お兄ちゃん一緒に遊ぼう」などと話しかけ、関わるきっかけを作ってみるが、匠くんはあまり関心を示さず、他の子から逃げてしまう始末だ。
頑張って友達を作ろうとしているのにはわけがある。
森田さん「私の内向的な性格がこの子にも遺伝して、友達作りが上手じゃない子になったらどうしよう。コミュニケーション能力や社会に適応する力を伸ばすために、お友達は1歳くらいからもう必要なのかなと」
友人が、この4月から子どもを保育園に入れると聞いた。匠くんは3歳から幼稚園に通う予定なので、早くから保育園に行っている子とコミュニケーション能力に差が出るのではという心配もあるようだ。
坂上氏「(匠くんは)1歳児らしいお子さんだと思う。今、おもちゃを取ってお母さんのところに見せに行っていた。この時期は友達との関わりより、身の回りにどんな面白いものがあるのかを自分の手で取って調べ、操作することで色々変化が起こるのを楽しむ時期。『こんな面白いものがあったよ』とか『これ楽しいよ』と言ってくるので、まずは大人が『うん、そうだね』と言って共有してあげる。楽しみを人と共有できる経験が、その後に友達を作る時の土台になる。家で育てている、保育園に行っているは関係なく、その年齢で大事な経験はどこに行っても同じ」
汐見氏「保育園に行った子どもの方が幼稚園に行った子どもより社会性が発達するというデータはない。なぜ3歳から幼稚園に通うようになっているかというと、自分から友達と遊ぶのをどんどん求めるのが大体3歳くらいからだから。0~2歳で友達と一緒に遊んでもいいが、絶対に必要というわけではない。友達より、親や兄弟など、本当に親しい関係の中で好きなように遊べて、守ってくれる人がいる、何かあった時に『大丈夫』と言ってくれる人がいるなど、世の中は安心、安全だという感覚を身に着けると、心に基地ができ、いろんな友達とそれほど不安なく関わっていける。今はその準備をしているから、同じような年齢の友達と遊ばなければ発達しないと神経質に考える必要はない」
トラブルを起こしてもまずは怒らず「共感」を
石川陽葵(ひまり)ちゃん(1歳6か月)は子育て支援センターに通っているが、同年代の子とおもちゃの取り合いになり、手を出して叩こうとすることも。親はどう対処すべきか。
坂上氏「1歳後半から2歳の初めは、物や場所をめぐるトラブルが一番よく起こる。『これは私の場所、私の物』というように、自分を作るために必要な作業をしている時期。友達作りの前段階として大事なプロセス。この年齢の子どもは仲良く遊びなさいと言っても難しい。親がトラブルを起こさず遊べるよう、子どもの人数分物を用意したり、接触しすぎないようにしたりと、環境面での配慮も考えて」
汐見氏「1歳半から2歳は本当にトラブルが多い。保育園でも噛みつきが一番多いのがこの年齢。先生方は困るが、子どもからしたら自分のテリトリーをまず作りたいし、そのテリトリーに勝手に入って来られたらガブッとやりたくなる。動物ですから。子どものテリトリーを大事に守ってほしい。噛みついたり暴力をふるったりしようとしたら介入すべきだが、やってしまった後に『ダメでしょ』と怒らないでほしい。子どもは悪いことをしたつもりは全くなく、自分を守っただけ。なのに親から攻撃されるとショックを受けたり、ムカッとしちゃうからなかなかおさまらなかったり。『やっちゃったね、本当はこうしたかったんだよね』『こうしちゃったから謝ろうか』などと言って、まずはその子に共感してほしい。子どもの気持ちを『わかるよ』と発してから、その後の言葉をつないでいってほしい。そうしないと同じことを繰り返す」
人と関わるのが得意じゃないのも個性
埼玉県の福田晃己(こうき)くん(3歳5か月)はこの4月から幼稚園に通い始めるが、他の子と遊ぶのが苦手で、ママは友達ができるか心配している。
ある日、母親学級で知り合ったママ友に会いに公園へ行った。友達の子ども二人とは最近一緒に遊べるようになったが、幼稚園は離れ離れだ。
福田さん「とても友達ができそうな気がしない。この子達とは奇跡的に仲良くなった方」
他の二人が遊具で遊ぶ中、晃己くんは応援しているだけ。ママが「晃己もやれば?」、友達からも「一緒にしよう!」と言われるが、「やんないよ!」「晃己は見るだけ!」と頑なだ。
福田さん「友達と積極的に付き合っていける子になってほしい。幼稚園に入って一人だけポツンといるような子にはなってほしくない。そうなるんじゃないかという不安がある」
現在プレ幼稚園に通っているが、他の子がいるところには近付かず、遊んでいるのを立って見ているだけだという。
坂上氏「大人の感覚だと、関わって一緒に遊んでいないと参加していないと思うが、子どもは見ているだけでも『あんなことやってるんだ』『面白そうだな』など、心がいっぱい動いている。晃己くんなりの参加の仕方をしている。幼稚園では子ども同士がすぐに仲良くなることはあまりない。一人一人が園生活に慣れるという精一杯な状態から、幼稚園はお母さんお父さんのかわりに先生が、信頼できる大人がいるとわかり、安心して過ごせるようになる。友達を作るのはその次のステップ。大体の子どもは2学期が終わる頃には家でいろんな友達の名前を言うようになったり、『幼稚園でこんなことがあったよ』と話をするようになるので、親は『この子は大丈夫』と信じて子どもの持ち味を大事にしてあげて」
汐見氏「晃己くんは典型的な『観察学習派』だなと。すぐに輪に入らず、心の中で一緒に遊んでいるタイプの子っているんです。大きくなってからより、小さい時の方が個性ははっきりしている。人と関わるのが得意じゃない子が途中からガラッと変わることはないが、その子なりの成長の中で心が豊かになっていく。例えばとても社交的な子が小説家になることはない。生まれつきのものを変えようと思わない方がいいし、これはこれで楽しみだと思ってあげた方がいい」