バドワイザー、コカ・コーラに不買運動も
ビールの最大手「バドワイザー」のCMは、ドイツ移民である同社の創業者が苦境を乗り越えてアメリカンドリームを実現する話を、ドラマ仕立てにしたもの。若くしてビール作りの夢を抱き、過酷な船旅の末、アメリカにたどり着くものの、「国に帰れ」とののしられる場面がある。
「決して夢をあきらめない不屈の精神。これがまさにアメリカだ。映画を見ているようで、心に深く訴える」と多くの人の共感を得た一方で、これもトランプ大統領の移民政策に対する批判と受け取られた。
民泊仲介サイト「エアビーアンドビー」は、さまざまな人種、民族の顔を写し、「あなたが誰であれ、どこの出身であれ、誰を愛し、そして何を信仰しようが、私たちは皆、同じ人類です」という文章を流した。「コカ・コーラ」は、愛国歌「アメリカ・ザ・ビューティフル」を多言語で流した。これは2014年のスーパーボウルでも放送され、「トランプ政権の移民政策とは無関係だ」としているが、両社ともトランプ支持派の一部の反発を買った。
トランプ支持派は、「スーパーボウルに政治を持ち込むな」、「このタイミングで平等、移民などのメッセージを送るのは、トランプ政権に対する侮辱だ」とし、84 ランバーだけでなく、バドワイザーやコカ・コーラ、エアビーアンドビー、ティファニーなど、スーパーボウルのCMスポンサーに対する不買運動を呼びかけた。ハーフタイムでトランプに批判的なレディ・ガガが登場したことで、ガガやNFLをボイコットする動きまで起きた。
反撃が反撃を呼ぶ。バドワイザーのボイコットを呼びかけるハッシュタグの一部が、「Budweiser」ではなく「Budwiser」となっていたことで、反トランプ派は、「スペルもわからないようじゃ、ボイコットもできないだろう」と揶揄する。
不買運動が起きている企業のフェイスブックなどには、支持する人たちからの声も殺到している。
「これからはバドワイザーを応援するために、飲むことにするよ」という男性もいれば、「84 ランバーの製品は、私の地元ではどこで買えますか」といった問い合わせもある。
大逆転で劇的な幕切れとなったスーパーボウルの試合と違い、移民政策の是非をめぐる攻防は終わりが見えない。(随時掲載)
++ 岡田光世プロフィール
岡田光世(おかだ みつよ) 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社
のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓
を描いている。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1
弾から累計35万部を超え、2016年12月にシリーズ第7弾となる「ニューヨークの魔法
の約束」を出版した。著書はほかに「アメリカの 家族」「ニューヨーク日本人教育
事情」(ともに岩波新書)などがある。