元大相撲大関でタレントの小錦八十吉(やそきち)さん(53)が、2017年初場所後に横綱昇進を果たした稀勢の里について、2月10日の朝日新聞のコラム「耕論」で見解を語った。
小錦さんは現役時代、幕内最高優勝を3度経験しながら横綱にはなれなかった。対して稀勢の里は初優勝で昇進。両者を比較し「基準が甘いのでは」との声も一部で出ていた。しかし、当の小錦さんはコラムで「とても喜ばしい」と前向きに述べた。
「今まで外国出身力士ががんばって、相撲人気を支えてきた」
日本出身横綱の誕生は、1998年の若乃花以来19年ぶり。小錦さんはコラムで「相撲全体のためにはとても喜ばしいことだね。日本人が『待ってました』というのは当然だよ」とした上で、「今まで外国出身力士ががんばって、相撲人気を支えてきた」と、2000年前後からのハワイやモンゴル出身勢の台頭に触れた。
小錦さんは年配の相撲ファンから「モンゴル出身ばかりで面白くないから見ない」と言われるといい、これを踏まえて「稀勢の里が横綱になって日本対モンゴルの取組ならファンは大喜びだ」と視聴者の心境を推し量る。
小錦さんは1987年、外国出身力士として大相撲史上初の大関となった。後に陥落するも97年の引退まで活躍。当時珍しかった外国出身勢であるのと、270キロ以上の巨体による迫力なども相まって、さまざまな意味で注目を集め続けた。
「僕の時代は、強い人がみんな日本人。そういうときにハワイから来た僕が頑張って人気が出た。それから若貴時代がきて相撲が盛り上がった」
一方で、多くのモンゴル勢が上位を占める最近の大相撲について「現役力士がテレビに出てタレント扱いされてる。寂しいね。相撲は勝負の世界だから厳しいんだ。土俵で勝てないと稼げない。強くないと何も始まらないよ」と奮起を促した。これが日本出身勢を念頭に置いていたかは定かでないが、そんな中で稀勢の里が初優勝と横綱昇進を果たした。
「稀勢の里の横綱昇進は、基準が甘かったという声も聞くね。プロの目から見ても甘いと思うけど、いいんだよ。今回の昇進を逃したら、いつ日本出身の横綱が生まれるか分からない。横綱稀勢の里はどうしても必要なのさ」
小錦さんは「今、困っているのは日本の若い子たちが相撲部屋に入ってこないこと」と嘆き、「稀勢の里を見て、日本の子供たちに相撲に入ってきて欲しい」「稀勢の里が横綱になったのはいいんだ。みんなが関心を持つようになるからね」と大きな期待を寄せている。
「小錦さんも横綱になれたのではないか」に対して...
これだけ相撲界の将来を考えている理由については「相撲ほど美しいものはないよ。礼に始まり礼に終わる。日本の文化を代表するものなんだ。日本で毎日、着物を着ているのは芸者さんと相撲取りぐらい。負ければ、心の中では悔しくても黙って頭を下げて帰る」と語る。その上で「相撲は日本の国技だって言うなら、国にもっと支援して欲しい」と引退力士の登用も求めている。
最後に、稀勢の里が昇進した今回の基準なら小錦さんも横綱になれたのではないか、と問われると「それは余計なことだよ」と一蹴。一歩引いた視点でこう述べた。
「僕が何か言って変わる? 僕は通算で3回優勝したけど、横綱にはなれなかった。優勝しないで横綱になった人もいる。基準は時代時代で変わる。決めるのは横綱審議委員会だよ。僕の夢はかなわなかったけど、素晴らしい相撲人生だったよ」
稀勢の里の横綱昇進をめぐっては、J‐CASTニュースが1月23日に日本相撲協会に取材したところ、「代表電話にはファンからの声が賛否両論、いろいろと届いています」と話していた。著名人の間でも、三島由紀夫賞作家の星野智幸氏(51)は1月23日、ブログに「もし例えば照ノ富士(編注:大関、モンゴル出身)がこのような状況にあったら、こんなにまで条件を下げて突然の横綱昇進を認めただろうか。これは『日本人』にだけ許された特権ではない、と協会や横審は証明できるのか」などと投稿していた。
小錦さんの今回の記事がツイッター上で拡散されると、さまざまな感想があがっていた。
「相撲への深い愛と人柄がにじみ出ていて泣ける」
「小錦さんの言うように、稀勢の里が横綱になったことで相撲に関心を持ってもらうのはいいことだな」
「実感がこもった真実。外国人力士の言葉は外国人奏者の私に刺さる」
「小錦氏の人間性や価値観に敬意を表するとともに相撲という国技に対する日本国民としてどう向き合っていくのかを改めて考えさせられる」
「とはいえ連続優勝も無いしなぁ。成績的にも曙・武蔵丸と比べると格が落ちる」
「彼は大きくて強くてバッシングされてた記憶がある。切ない記事だと思うんだよな...」