高齢者のドライバーが引き起こす交通事故が絶えないなか、高齢者に自動車運転免許証の自主返納を促す取り組みが広がっている。
高齢になると、運動能力や判断能力が衰えてくる。その一方で、運転免許を保有する高齢者は増えており、65歳以上の保有者は1710万人(2015年末時点、警察庁調べ)と全体の2割を占めている。
高齢ドライバーの8割が運転免許の返納に消極的
高齢者が加害者の交通事故は増加傾向にある。警察庁がまとめた「交通事故統計」によると、2016年1~11月までに発生した交通事故は44万9872件。このうち、死者数は3484人でともに前年同期に比べて減少した。しかし、死亡事故の加害者(原付き以上、第1当事者)を年齢別にみると65歳以上が800件を大きく超えている。
クルマが登校途中の小学生の列に突っ込んだり、病院の敷地内で暴走して歩行者をはねたりといった重大事故が頻発するなど、高齢者のクルマの運転は社会問題化している。それもあってか、運転免許の「自主返納」を利用する人は年々増加。2015年は28万5514件と、前年を37%上回った。その多くが65歳以上で、返納者は東京都や大阪府、埼玉県などで多い。
返納すると、「運転経歴証明書」(手数料1000円、自治体によって無償)が発行される。運転経歴証明書は身分証明証としても使えて、最近では金融機関の口座開設時などで本人確認書類として利用されている。
その一方で、高齢者にとってクルマは「足」も同然。とくに鉄道などの交通網が不便な地域に住む高齢者は運転免許が手放せない。
埼玉県警が実施した調査(2016年12月1日~17年1月20日に実施)によると、運転免許の更新などのため、鴻巣市の運転免許センターや県内39の警察署を訪れた65歳以上の高齢ドライバーら2495人に対して調査したところ、「運転免許を返納してもよいと思いますか」との問いに、「思わない」と答えた人は回答者(2369人)の81.0%にのぼった。「運転する理由」には、回答者(2275人)の77.8%が「買い物・通勤」をあげた。
また、「どのようなサービスがあれば運転免許を返納しますか」との問いに、回答者(1741人)の26.2%が「コミュニティバスの充実」と回答。「公共機関の割引」(17.1%)や「タクシーの割引」(15.0%)などが続いた。
返納した人に、マイカーに代わる移動手段を提供する必要があることがわかる。
三重交通は同伴者も半額
そうしたなか、運転経歴証明書を提示すると、さまざまな特典や優待を受けることができる支援策を、地域の交通機関が相次いで導入、リニューアルしている。
三重県津市の三重交通(グループ4社)は、運転免許を返納した人を対象に乗り合い路線のバス運賃を3月1日から半額(10円未満切り上げ)にする。同社の一番安い運賃(初乗り)の場合、180円が90円になる。三重県内の路線バスでは5社が運行しているが、同社が半額にしたことで、運転免許の返納者は県内全域で半額になる。
利用者に年齢制限はないが、運賃の支払い時に「運転経歴証明書」を運転手に提示する必要がある。また、家族や友人などの同伴者も1人に限り半額でバスに乗れる。同伴者の割引は全国でも初めてという。
2017年2月7日、J‐CASTニュースの取材に三重交通は、「じつは三重県は全国的にみても、高齢者の運転免許の返納率が悪いんです。そのため、ご家族や友人の方からも返納を勧めていただければと思い半額にしました」と話した。
あわせて、2011年から導入している運転免許の返納者向けの、フリー定期券「セーフティーパス」をリニューアル。これまでの6か月定期券(3万円)と1年定期券(5万円)の2種類に、新たに1か月定期券(5000円)と3か月定期券(1万3000円)を用意したほか、6か月定期券を2万5000円に、1年定期券を4万8000円に値下げした。
同社は、「地域によっては、飲食や買い物の割引サービスなど返納者の支援が充実しています。三重県はその点が遅れているので、その(支援強化)きっかけになればと思っています」という。
また、佐賀県バス・タクシー協会も、運転免許を返納した高齢者のタクシー運賃を1割引にすると、2017年1月23日に発表した。3月12日から、県全域で適用する。さらに、高知県では土佐くろしお鉄道(中村・宿毛線)や、高知西南交通や宇和島自動車、JR四国バスなどが運賃を半額に、熊本県の九州産交バスも運賃を半額にしている。