脳卒中の後遺症の一つに半身麻痺がある。麻痺した体を障害物などにぶつけることがケガや転倒の原因になっているが、首都大学東京の研究チームは、脳卒中患者が狭い隙間を歩いて通り抜ける際の転倒回避の秘訣を発見し、米科学誌「プロスワン」(電子版)の2017年1月19日号に発表した。
三次元動作解析カメラを使って分析した結果、麻痺した側を前方に押し出して進むと衝突しにくいことがわかった。リハビリテーションに応用すれば、日常生活の転倒防止につなげることが期待できるという。
転倒の恐怖から家に閉じこもり要介護進行
首都大学東京の発表資料によると、脳卒中患者は日本で約120万人にのぼり、要介護の原因の1位になっている。半身麻痺になり、外出の際、体を障害物にぶつけて転倒する人が多い。転倒の恐怖から家に閉じこもり筋力が低下し、さらに要介護が進行する原因となっている。そのため、歩行中の衝突回避能力を高める研究が求められている。
研究チームは、年齢・性別を揃えた脳卒中患者23人と健常者23人を対象に、狭い隙間を通り抜ける時の衝突回避方法の実験を行なった。2つのスクリーンで狭い隙間を作り、そこを参加者が接触せずに通り抜ける。参加者は全部で15回隙間を通過したが、隙間の大きさが毎回変わるため、隙間の大きさに応じて衝突回避行動を工夫する必要があった。
三次元動作解析カメラ8台を使い、隙間通過の様子を詳しく分析した。その結果、衝突はほとんど麻痺した側の体で起こっていた。体の自由が効かない側を壁にぶつけてしまうのだ。狭い隙間を通り抜ける際、接触を回避するために体幹を少し回転させ、斜め歩きで進まなくてはならない。
障害物にぶつかる割合が5分の1に
そこで、麻痺した側を先に進むか、麻痺していない側を先に進むかで分けて衝突する割合を比較した。すると、転倒歴のある患者の場合、麻痺側を先に進む場合は、逆の場合に比べ、衝突率が約5分の1も低くなった。麻痺側から隙間に入ると、障害物との衝突を回避しやすくなるのだ。ただ、その理由はわかっていない。
今回の結果について、研究チームの樋口貴広教授らは発表資料の中で「得られた成果を脳卒中患者のリハビリテーションに応用することで、日常生活における衝突や転倒を減少させることが期待されます。今後、なぜ麻痺側から隙間に入ると衝突が回避できるのかの原因究明を行います」とコメントしている。