三菱重工業は国産初のジェット旅客機「MRJ(三菱リージョナルジェット)」の納入時期を従来予定の2018年半ばから2020年半ばへ2年延期すると発表した。安全性を高めるため、これまでの設計を見直すのが理由というが、納期の延期は5回目となる。
MRJは事業化を決定した2008年当時は納入時期を2013年としており、当初計画から7年以上も遅れることになる。日本にとって、名機「YS-11」以来、約半世紀ぶりの国産旅客機が羽ばたくハードルは高い。
操縦桿や2万3000本の配線見直し
関係者によると、三菱重工は昨年秋、初納入先となる全日本空輸に「設計の見直しをするので納期が遅れる」と連絡した。設計の見直しはいろいろあるが、MRJの開発を進める三菱重工子会社の三菱航空機には「これまで、ひとりよがりの設計があった」という。このため、同社が外国人の専門家を招いて見てもらったところ、安全性向上のため設計の変更を求められたという。
具体的には操縦桿(かん)の動きを伝える「飛行制御システム」など主要部品の配置変更だ。約2万3000本の電気配線の設計も見直しを求められた。飛行機がトラブルや爆弾テロなどに遭った場合を想定し、飛行制御システムを一箇所に集中させず、別系統にリスク分散させなければ、米国など先進国の安全性審査をパスできないという。
三菱重工の宮永俊一社長は記者会見で「最新の安全規制に適合する飛行機として世界で売っていくためには、あと2年はかかる」と述べ、理解を求めた。これを受け、石井啓一国土交通相は「約半世紀ぶりの国産旅客機の開発には様々な課題があることは理解しているが、三菱重工業には、今回示された見通し内に確実に納入できるよう、しっかりと取り組んでいただきたい」と釘を刺した。
国交省にも安全性証明の責任が
もっとも、航空機の専門家の間には「旅客機の開発にトラブルはつきもので、当初予定が延びるのは避けられない」との見方がある。航空機のライフタイムは30~40年と長く、「開発段階で初期不具合が発生するのは、ボーイングでも避けられない」という。事実、ボーイングの最新鋭機B787も、エンジンが習熟するまでは狙った燃費を達成できず、バッテリーの過熱など大小のトラブルが発生した。
国産旅客機の開発は、国際民間航空条約に基づき、設計・製造国として、日本の国交省が「MRJの設計が安全・環境基準に適合する」ことを証明する責任を負っている。三菱重工と同様、国交省にとっても、国産旅客機の安全性審査はYS-11以来、約半世紀ぶりとなる。このため、国交省は「安全性審査に当たり、米国、欧州の航空当局の担当者と密接な連携を行っている」という。
国交省は「これまでのところ、設計・製造国としての安全性審査は順調に進んでおり、わが国の審査の内容や体制について、欧米当局から特段の問題点の指摘はない」としている。三菱重工が外国人の専門家を招いて設計を見直したことで、「初期トラブルがなくなり、洗練された飛行機になるのではないか」と、関係者の間ではむしろ期待も高まっている。