小説『1984年』米国で売り上げ1位 トランプに「反ユートピア」見る米国民

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   2017年1月月20日の就任以来、反イスラムや反移民の大統領令を連発し、世界に大混乱の種を振りまいているトランプ米大統領だが、米国内の本の売れ行きにも予想外の異変を巻き起こしている。

   1月に入り、米国のアマゾン書籍売り上げランクトップに躍り出たのが、英国の小説家ジョージ・オーウェルの反ユートピア小説「一九八四年(1984年)」だ。

  • ジョージ・オーウェル「一九八四年(1984年)」/Amazonより
    ジョージ・オーウェル「一九八四年(1984年)」/Amazonより
  • ジョージ・オーウェル「一九八四年(1984年)」/Amazonより

『動物農場』も増刷決定

   ビッグブラザー率いる党が支配する全体主義的な近未来の社会を描き出した小説で、1948年以来、世界で読み継がれてきた20世紀を代表する名作だ。主人公は真理省記録局に勤務し、歴史の改竄が仕事だが、完璧な屈従を強いる体制に以前から不満を抱いていた。美女と恋に落ちたことをきっかけに、反政府の地下活動に惹かれるようになっていく。

   英国の公共放送BBCが取材した米国での版元によると、トランプ氏の就任以来、売り上げはそれまでの95倍に激増した。このため、版元は「1984年」と、同じ著者の「動物農場」の10万部増刷も急遽決定した。

   初版以来の発行部数は3000万部という大変なロングセラーだが、前回、売れ行きが急増したのは米国家安全保障局や中央情報局(CIA)職員だったエドワード・スノーデン氏が政府による個人情報収集の不正な手口をメディアに流し、国家が市民を不当に監視していると世界的問題になった2013年以来のことだという。

   米国のメディアによると「1984年」は米国の主要な書店の一番目立つところに山積みされているという。この本が注目を浴びたのはトランプ氏や報道官が、大統領就任式に集まった人出が2009年のオバマ前大統領就任時に比べ、少ないと報じたことに、「メディアは真実を報じず、嘘のニュースばかり流している。テレビ中継を含めればずっと多い」と事実に基づかない「もうひとつの真実」を強弁し続けていることが全体主義社会の到来を連想させているようだという。

『素晴らしい新世界』『華氏451度』

   やはりアマゾンのベストセラーランクで急浮上したのはイギリスの作家オルダス・ハクスリーの「素晴らしい新世界」。胎児の時から生化学的に管理され、洗脳的な教育によって管理されていることに疑問すら抱かない究極の管理社会の現実を描き出した。こちらもこの2年間、アマゾンの100位以内には入っていなかったが、10位にランク入りしている。

   さらに、もうひとつの反ユートピア小説、アメリカの小説家レイ・ブラッドベリの「華氏451度」も、本が忌むべき禁制品になってしまった未来の世界を舞台に、華氏451度で燃え出す紙の書物を焼く仕事をする主人公と少女との出会い、その後の劇的な人生の変化を描き出している。「華氏451度」もアマゾンの15位にランクインしている。

   こうした書物は代表的な反ユートピア小説として名高いが、同じジャンルのほとんど忘れられていた小説もよみがえっている。1930年にノーベル文学賞を受賞したアメリカの小説家シンクレア・ルイスの「ここではそんなことは起きない」(It Can't Happen Here=日本未訳)で、バズ・ウィンドリップというカリスマ的大うそつきが「偉大なアメリカ」を取り戻すと公約して大統領に就任し、アメリカをファシズム国家に変質させていくという究極的な反ユートピア小説だ。

   1935年の出版で、アメリカでもほとんど忘れられていたが、トランプ大統領就任で、彼の主張と小説の内容があまりに似通っていると注目を集めた。アマゾン・ベストセラーランキングで8位に入った。この小説では「忘れられた男たちの同盟」が反移民の国粋主義的な感情に訴え、選挙戦で勝利を手にする過程が記されている。米国は当時、第2次大戦前夜の大不況だったため、ルイスはヨーロッパで勃興してきたナチズムなどのファシズムに対し、警告を発するためにこの小説を書いた。

   反ユートピア小説がベストセラーになるのは、米国でも全体主義や管理社会の到来を予感したり、懸念したりする人が増えている証拠だ。日本でもトランプ大統領の出現で、日米関係の行く末を心配する人が増えているという世論調査の結果が発表されている。だが、自国の行く末をもっとも心配しているのはアメリカ人だということは間違いない。

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