『素晴らしい新世界』『華氏451度』
やはりアマゾンのベストセラーランクで急浮上したのはイギリスの作家オルダス・ハクスリーの「素晴らしい新世界」。胎児の時から生化学的に管理され、洗脳的な教育によって管理されていることに疑問すら抱かない究極の管理社会の現実を描き出した。こちらもこの2年間、アマゾンの100位以内には入っていなかったが、10位にランク入りしている。
さらに、もうひとつの反ユートピア小説、アメリカの小説家レイ・ブラッドベリの「華氏451度」も、本が忌むべき禁制品になってしまった未来の世界を舞台に、華氏451度で燃え出す紙の書物を焼く仕事をする主人公と少女との出会い、その後の劇的な人生の変化を描き出している。「華氏451度」もアマゾンの15位にランクインしている。
こうした書物は代表的な反ユートピア小説として名高いが、同じジャンルのほとんど忘れられていた小説もよみがえっている。1930年にノーベル文学賞を受賞したアメリカの小説家シンクレア・ルイスの「ここではそんなことは起きない」(It Can't Happen Here=日本未訳)で、バズ・ウィンドリップというカリスマ的大うそつきが「偉大なアメリカ」を取り戻すと公約して大統領に就任し、アメリカをファシズム国家に変質させていくという究極的な反ユートピア小説だ。
1935年の出版で、アメリカでもほとんど忘れられていたが、トランプ大統領就任で、彼の主張と小説の内容があまりに似通っていると注目を集めた。アマゾン・ベストセラーランキングで8位に入った。この小説では「忘れられた男たちの同盟」が反移民の国粋主義的な感情に訴え、選挙戦で勝利を手にする過程が記されている。米国は当時、第2次大戦前夜の大不況だったため、ルイスはヨーロッパで勃興してきたナチズムなどのファシズムに対し、警告を発するためにこの小説を書いた。
反ユートピア小説がベストセラーになるのは、米国でも全体主義や管理社会の到来を予感したり、懸念したりする人が増えている証拠だ。日本でもトランプ大統領の出現で、日米関係の行く末を心配する人が増えているという世論調査の結果が発表されている。だが、自国の行く末をもっとも心配しているのはアメリカ人だということは間違いない。