トランプが叫ぶ「国境税」の正体 「関税」以外の手法とは

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   「米国第一」を掲げて大統領に就任したトランプ氏が「他国に移転して米労働者を解雇するような企業は、極めて重い国境税を支払うことになる」などと、保護主義的な発言を繰り返し、日本に対しても、自動車を中心とした貿易不均衡に攻撃の矛先を向けている。

   就任すれば選挙中の過激な発言も現実的になっていくとの期待は淡く消え、環太平洋経済連携協定(TPP)からの「永久離脱」の大統領令に署名したトランプ氏は、貿易交渉を2国間で進める姿勢を鮮明にし、2017年2月10日に行われる安倍晋三首相との首脳会談でも、日米2国間協議の開始を迫ると見られている。

  • 国境税のツケは米国の消費者に
    国境税のツケは米国の消費者に
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高関税はWTO違反との指摘に、再交渉や脱退を示唆

   そのトランプ氏が盛んに言及するのが「国境税(border tax)」だ。1月5日にトヨタ自動車に対し、「米国に工場を建てるか、巨額の国境税を払え」とツイッターで批判、23日には「外国に移転する企業には相当な国境税をかける」と述べるなどの発言を繰り返している。ホワイトハウスのスパイサー報道官は26日、メキシコ国境の壁建設費用にあてるとの脈絡で「メキシコのように、我々が貿易赤字を抱える国からの輸入品に課税する。500億ドル(約6兆円)の輸入品に20%を課税すれば年100億ドルが入り、容易に壁建設の費用がまかなえる」などと述べている。

   果たして国境税とはどんなものなのか、そして実現するのか。

   通常、この手の税金としては関税が思い浮かぶ。輸入品が税関を通る際に課される。世界貿易機関(WTO)のルールのほか、多国間、2国間での自由貿易協定(FTA)などの取り決めで、国により、製品により、どれだけ課税するか決め、貿易が行われている。北米自由貿易協定(NAFTA)やTPPは多国間FTAの代表で、NAFTA加盟の米加墨(アメリカ・カナダ・メキシコ)の間では関税がかからない。

   米国が一方的に非課税なものに課税したり、関税を引き上げたりすることは、米国内の問題としては大統領の権限でできるが、WTOやNAFTAなどのルール、協定違反になる。例えば、米国が自動車を輸入する場合、NAFTAのメキシコやカナダからは関税ゼロ、その他の国からもWTOの取り決めで最大2.5%とされている。もし、メキシコからの輸入車に20%の関税をかければ、これらに違反する。

   トランプ氏は選挙戦中の2016年7月、高関税はWTO違反との指摘に、「再交渉を行うか、脱退するかだ」と述べているのも不気味だ。

   関税以外の手法も取りざたされている。法人税の一種として輸入品に課税するもので、国境で課税を調整するという意味で、「国境調整税」と言われたりもする。輸出では企業の税負担を軽くし、輸入では重くするもので、議会共和党指導部が選挙中に示した税制改革案に盛り込まれている。

結果として米国の消費者が高いものを買わされることに

   それによると、輸出は還付などで事実上の免税とするので、その分、輸出品が値下がりし、米国製品の競争力が高まる。一方、輸入品には今まで以上の税金がかかるようにし、輸入企業の負担を重くする。現在は商品を輸入すれば、その分を仕入れコストとして差し引き、課税対象の所得を計算できるが、共和党案では輸入品の仕入れコストを差し引くことを認めずに課税対象に含めるため、事実上の増税になる――という。

   この「国境調整」は以前からのテーマだった。日本や欧州は、輸出品の原材料などの仕入れ時にかかった消費税(付加価値税)が還付されるが、全国レベルの消費税・付加価値税がない米国では還付がなく、米国企業は不公平だと主張していた。トランプ氏が主張する「国境で課税」と狙いは違うし、トランプ氏自身、共和党案に対して「複雑すぎる」と述べているという報道もあるが、結果として、狙いに即して使えるツールと見られており、この案を軸に検討が進むとの見方が強い。

   ただ、国境調整税でも、輸出企業の税負担軽減が事実上の「輸出補助金」に当たるとしてWTO違反に問われる可能性があり、日欧などは、米国が実際に導入すればWTOに提訴する見通しだ。

   関税、国境調整税のいずれにせよ、輸入の税負担増はコストアップとして、その分が米国内価格に上乗せされることになり、最終製品であれ、部品であれ、結果として米国の消費者が高いものを買わされることになる。

   通商関係者は「メキシコであれ中国であれ、あるいは日本の自動車メーカーであれ、華々しく『敵』を叩くパフォーマンスはいいが、議会共和党との調整を含め、トランプ氏の主張を実際の政策にどう落とし込んでいくか、不確定要素が多すぎる」と指摘している。

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