無料通話アプリを手がけるLINEの株価が2017年1月26日、急落した。朝から売りが殺到し、一時は前日比655円安の3530円を付け、16年8月1日の上場来安値(3780円)をあっさり更新した。
LINEは前日の1月25日、上場して初めての通期決算(2016年12月期)を発表。好調な広告事業を背景に、最終損益が75億円の黒字に転換したものの、市場の評価は厳しかった。
広告事業が売り上げをけん引
LINEの2016年12月期連結決算は、売上高が前期比16.9%増の1407億400万円、営業利益は前期から10.2倍増の198億9700万円と大幅な増収増益を果たした。最終損益は前期の75億8200万円の赤字から75億6000万円の黒字に転換した。
16年7月15日に東証1部に上場して初めての通期決算で黒字を確保した出沢剛社長は、2017年1月25日の決算会見で、「2016年は世界で大きな戦いをしていく準備が整った年だった。今後もそれぞれのサービスに大きな成長余地がある」と、自信をみせた。
業績をけん引したのは広告事業で、売上高は50.2%増の547億円。具体的には、企業がユーザーに個別のメッセージや広告を送信できる、有料公式アカウント数が拡大。また、「タイムライン」や「LINE NEWS」の閲覧数の拡大に伴い、これらのページ内に掲載されるパフォーマンス型広告が順調に推移。出沢社長は「広告の増加トレンドは非常に強い」と説明した。
ところが、順調にみえるLINEに株式市場が「冷や水」を浴びせた。1月26日のLINE株は、上場来安値を記録。一時、655円安の3530円まで売られた。終値は430円安の3755円。好調な米株式市場を反映して、東京株式市場に上場する銘柄も軒並み値を上げたことから、LINEの急落はことさら目立った。
SBI証券シニアマーケットアナリストの藤本誠之氏は、「LINEについては、そもそも多くのアナリストがバラ色の決算を考えていたところ、フタを開けたら『そうでもなかった』ための失望売りといえるでしょう」と話した。
「失望」を生んだ原因を、藤本氏は「ゲーム事業(LINE GAME)にある」とみている。ゲームは当初、LINEが広告事業に次ぐ「収益の柱」とみていた事業だ。 2016年10~12月期の売上高の内訳をみると、広告事業が42%なのに対して、ゲームを含むコンテンツ事業は29%にとどまる。広告事業が、前期に「稼ぎ頭」だったコンテンツ事業(15年10~12月期は33%)を上回った格好で、多くの投資家らが「伸び悩み」と評価した。
イラスト「スタンプ」などのコミュニケーション事業は19%だった。
ゲーム事業は「利益が上がりにくい」
SBI証券の藤本誠之氏は、「すでにゲーム事業は、当たらなくなっています」という。LINEが提供している「LINE ポコポコ」や「LINE ディズニーツムツム」などのスマホゲームはリリースから2年以上が経過。「新たなタイトルを積極的に投入していますが、目立ったヒットはありません」と指摘する。
加えて、スマホゲーム市場は、DeNAやミクシィほか、任天堂が参入するなど競争が激化している。藤本氏は、「LINEは、(ゲームを含むコンテンツ事業への)投資を進める方針を打ち出していますが、競争が激化しているうえにゲーム開発費は上昇。しかも必ずヒットするとはいえないことを考えると、利益は上げにくくなるばかりです。(ゲーム事業の先行きは)あまり明るくない」と説明。その一方で、LINEの出沢剛社長が決算会見で、そんな成長が鈍化しそうなゲーム事業にこだわる姿勢を見せたのだから、株価急落もうなずける事態のようなのだ。
さらに、藤本氏は2017年1月26日のLINE株の「売り」の多くが「アナリストの評価を重視していた機関投資家ではないか」とみている。「3530円は『底』をついたとみられ、逆に、個人投資家は買い進んでいるようすがうかがえます」という。
「LINEが国内最大の、子どもから高齢者まで利用するコミュニケーションツールであることに変わりありませんし、そのポテンシャルは高いです。考え方を変えて、伸びている広告事業や新たな、別のビジネスを考えたほうが高い評価を得やすいと思います」と話している。