米原子力事業で最大7000億円の巨額損失が生じる見通しとなった東芝は、稼ぎ頭の半導体事業の一部売却に踏み切る方針を固めた。これにより3000億円程度の売却益を見込むほか、他の事業や保有不動産なども売って損失を穴埋めし、債務超過を回避したい考えだ。だが、年度末が近づくたびに優良事業を売り、原子力事業の損失を埋める「切り売り経営」は、もはや限界を迎えている。
「10社近くが関心を示している。心強いことだ」。東芝幹部は、半導体事業の一部売却に向けて行う入札への手応えを語った。東芝は2017年1月27日に臨時取締役会を開き、業績好調な半導体事業の分社化を決める。分社してできる新会社の株式の2割程度を外部に売って資金を調達する方針だ。
買い手候補の中からは出資に慎重な声も
買い手候補には、主力の四日市工場を共同運営する米ウエスタンデジタルや複数の欧米ファンド、キヤノンなどが取りざたされている。日本政策投資銀行やメガバンクがつくる投資ファンドが出資する案もある。東芝の半導体事業はフラッシュメモリーの販売が好調で、「事業全体の価値も1兆円をゆうに超える」(金融機関)と評価は高く、関心が集まっているようだ。
ただし、投資する側からすれば「経営の主導権をとれない2割程度の出資に、どこまでうまみがあるのか」(投資ファンド)と懐疑的な見方もある。また、半導体事業は大規模な投資が必要で、市況にも左右される。足元の業績は好調でも、将来にわたって盤石とは言い切れず、買い手候補の中からは出資に慎重な声も聞かれる。
東芝の自己資本は2016年9月末時点で約3600億円と薄く、7000億円の損失を計上すれば、債務超過に陥りかねない。17年3月期末の債務超過を回避するには、3月中に半導体事業を分社化して外部からの出資を受け、さらに他の事業など「売れるものは何でも売却を検討」(大手行幹部)して資金をかき集める必要がある。事業や資産の売却先を探し、協議をまとめるために残された時間は2か月程度しかなく、綱渡りになりそうだ。
「これから何で稼いでいくのかが見えない」と懸念の声も
こうした課題を乗り越えて無事、3月末時点の債務超過を回避したとしても、東芝の未来が明るく開けるわけではない。東芝は2016年3月期も原子力事業で約2600億円の損失を計上した。期末になると原子力事業で損失が発覚して財務基盤が悪化することが年中行事になりつつあり、「原子力事業の将来性が見通せない中、これからも底なし沼のように損失が発生するのではないか」(アナリスト)と不安視されている。
しかも、2016年3月に、成長株だった医療機器事業を約6600億円で売却するなど、高く売れる事業から売って決算をしのいできた経緯がある。原子力事業を維持するために「虎の子」を次々に手放しているともいえ、「これから東芝が何で稼いでいくのかが見えない」(同)との懸念は強い。17年3月期決算を何とか乗り切ったとしても、東芝が再び苦境に陥るリスクはぬぐえそうにない。