ドナルド・トランプ氏が米大統領に就任し、政権運営が本格スタートした。大統領選挙期間中に見せた、主要メディアをはじめ敵視する相手を容赦なく叩くこわもてぶりは、大統領となってからも相変わらずだ。
1988年、トランプ氏に直接会ってロングインタビューを実現させた日本人がいる。国際経営コンサルタントで一橋大学非常勤講師の植山周一郎氏(71)だ。「若き不動産王」の姿をじかに知る植山氏は、現在のトランプ大統領をどう見ているのか。
自信満々、「気配りの人」でもあった
――著書「予言」(SDP刊)の中に、29年前にトランプ氏を初めて訪ねた際のエピソードがあります。直接お会いした当時と今を比べて、どちらが本当の姿だと思いますか。
植山 私が単独インタビューした際も自信満々でしたが、そこにはヒーローのような明るさが漂っていました。日本に対して厳しい意見を持っていましたが、一方で「私は日本人を尊敬している」という気配りもありましたし、インタビューの翌日は偶然彼の誕生日だったことから、誕生パーティーに招待してくれたほどです。
トランプ氏が大統領選でヒラリー・クリントン候補を破った直後の2016年11月9日(米国時間、以下同)、勝利宣言の中でヒラリー氏を称え、国が分断した傷をいやして団結しなければならないと訴えました。選挙期間中の「暴言王」の姿は影をひそめ、「私が会った時のトランプが戻ってきた」と喜びました。彼は相手によって、話の中身や話し方、表情を意識的に変える「パーソナル・ブランディング」の達人だからです。これで、大統領らしい振る舞いをするようになるだろうと思いました。
ところが2017年1月11日、当選後初の記者会見でCNNを「偽ニュース」呼ばわりして質問させないなど、ひどい対応をとりました。ああ、「吠えるトランプ」に逆戻りしてしまったとがっかりしたのです。
そして大統領就任演説の内容といい、就任式の観衆の数を巡ってメディアを攻撃する様子といい、私がインタビューした当時の気配りはどこにもなく、尊大さばかりが目立ちます。
――1月20日に行われたトランプ氏の大統領就任演説につき、率直な感想を聞かせてください。
植山 「がっかり」ですね。これまでは、ジョン・F・ケネディ元大統領をはじめ、演説の中には必ず聴衆の心に響く理想が込められていました。ところがトランプ大統領は、「私たちは雇用を取り戻す」といったような、大統領選の期間中に主張していた内容ばかりで新鮮味がなければ、哲学もなかった。耳に残ったのは「Make America great again.(米国を再び偉大にする)」のスローガンだけです。
演説では、自分を支持した人だけに呼びかけていた印象でした。世界平和や国際協調には言及せず、代わりに「アメリカ・ファースト(米国第一)」を繰り返して、「すべての国には自国の利益を最優先する権利がある」「保護主義こそが偉大な繁栄と強さにつながる」との主張は、大統領の言葉としては考えられません。まるで彼の頭の中には、米国地図しか描かれていないかのようです。