ランニングは膝に悪いとイメージがあるが、実は膝の関節の炎症を軽くしている可能性があるという驚きの研究がまとまった。
米ブリガム・ヤング大学の研究チームが欧州生理学誌「European Journal of Applied Physiology」の2016年12月号に発表した。
走る距離が伸びるほど「膝の不安」が少ない
いわゆる「ランナー膝」については、2015年2月9日にスポーツ用品メーカーの日本シグマックスが発表した、大阪マラソン出場者1159人を対象に行なったアンケート調査がある。それによると、「膝に痛みや不安を感じている」ランナーは約80%もいた。ただし、いつも走っている距離が長い人ほど、逆に膝に不安を抱える人が少なくなる傾向がみられた。月に100キロ未満しか走らない人は約85%が膝に不安を抱えていたが、100~200キロ以下では約75%、200キロ以上になると約67%に減った。発表資料では、「初心者はケガをしやすいが、ベテランになるほど、筋力が備わり、正しいフォームで膝に負担をかけないランニングができるからだ」と分析している。
ブリガム・ヤング大学の2016年12月8日付プレスリリースによると、マット・シーリー准教授(運動科学)らの研究チームは、ランニングが膝の関節に与える影響を調べる過程で、「意外な結論」に達したという。18~35歳の健康な男女に30分間ランニングをしてもらい、その前後に膝の関節液を採取し分析した。すると、ランニング後に、関節の炎症の兆候を示すマーカーである「インターロイキン15」と「マクロファージー・コロニー」(GM-CSF)というサイトカイン(タンパク質の一種)が減っていた。
2つとも細菌やウイルスと戦う免疫細胞や白血球を活発にする働きがある物質だ。関節に痛み(炎症)が起こると免疫システムに病原体を退治させるために、この2つの物質が増えるはずだが、逆に減少するということは、ランニングに何か炎症を減らす効果がある可能性を示している。
シーリー准教授は、プレスリリースの中で「今回の発見は、ランニングが膝に悪いという神話が思い込みにすぎなかったことを示すものです。メカニズムは分かりませんが、ランニングによって炎症に対抗する環境が体内で作られ、それが長期的な関節の健康につながる可能性があります」と語っている。
トライアスロン世界王者「膝は年をとるほど滑らかに」
日本では、関節の軟骨がすり減ったりして膝が痛む「変形性膝関節症」に悩む人は、60歳以上の女性で4割、男性で2割以上いるといわれる。シーリー准教授は「今回の研究は、ランナーが変形性膝関節症になりやすいことを示していません。むしろ、ランニングが変形性膝関節症の薬になる可能性も示唆しています」とも述べている。
今回の研究に、さっそく喜びの反応をした世界的なランナーがいる。大きなトライアスロンレース(水泳・自転車・マラソンの総合競技)を何度も制覇した経験を持つ米国のランナー、クリスファー・ベルグランド氏(50歳)だ。自分のブログ「アスリートの道」で次のように絶賛した(要約抜粋)。
「17歳で走り始めてからトライアスロンで数十回戦ってきました。2004年にはトレッドミルで、24時間ノンストップで247キロ走り、ギネスブック記録を樹立しました。人間ラットのように。たぶん私は走ることにかけて異常です。しかし、私の関節に痛みはまったくありません。年をとるにつれて私の関節はますます滑らかになっています。私の人生経験は、ブリガム・ヤング大学の研究の証明に役立つことができるかもしれません」