「信用力の回復を意味する社債市場復帰は悲願」
それでも「信用力の回復を意味する社債市場復帰は悲願」(東電HD幹部)なだけに、東電HDグループにとっては復帰すること自体に意味がある。東電HDグループは2016年9月にも社債市場復帰をもくろんだが、福島事故費用がどれだけ膨らむかを経済産業省がまさに試算している時期だったため、断念した経緯がある。福島事故費用については一応の試算と負担の枠組みが昨16年末に固まったことで、投資家へのリスクの説明が可能になった。
投資家にとっても妙味はありそうだ。かつては国債と並ぶ堅い投資先だっただけに利回りは国債並みの低さだったが、今回はさまざまなリスクを抱える分、一定の高さの利回りとなる見込み。とはいえ、福島事故費用は他の大手電力などを含めて負担する枠組み。そのなかで発行体が東電PGであれば、デフォルト(債務不履行)に陥るリスクは必ずしも大きくない。
東電HDグループとしては、今回の社債市場復帰によって自らの資金調達能力を高め、自立に向けた歩みを進めることで、脱「実質国有化」を果たしたいところだ。実際、社債市場への復帰は国が出資比率を引き下げていくうえでの条件の一つとされている。
しかしもちろん、自立はそう簡単な話ではない。経産省はむしろ、東電HDグループを解体し、原子力事業や送配電事業を他の大手電力と統合再編したうえで海外に打って出て稼ぐ姿を描いている。合計21.5兆円という福島事故費用も、特に世界で経験がなく今後数十年間続く廃炉については現在の8兆円で済むかどうかは見通せないのが実情だ。社債市場復帰は東電HDグループの自立への一歩ではあるが、あまりにその道のりは長い。