アパホテルが「南京大虐殺」を「中国側のでっちあげ」などとする書籍を客室に置いていた問題で、中国外務省が再び批判を強めている。
本の著者で、ホテルを運営するアパグループ代表の元谷外志雄氏が会合で「人の噂も75日」と発言した、として中国共産党系の「環球時報」がウェブサイトで報じ、その内容が記者会見で取り上げられ、中国側がアパや日本批判を強める、という構図だ。
3か月もすると「何か大騒ぎやってたけど何やったかな」ということが多い
元谷氏の発言は、同氏が「塾長」として主宰する「勝兵塾」の2017年1月19日の会合で出た。1月21日には、ユーチューブに冒頭あいさつの動画が公開され、その内容が明らかになった。元谷氏は、書籍に関連したアパグループへの批判は「大きな組織が絡んでいる可能性」が高いと指摘し、仮に書籍を撤去した場合「みんな屈服するという突破口を与えてしまう」として、改めて書籍の撤去を否定した。
今回の問題では、書籍をめぐる批判が高まったのとほぼ同じタイミングでアパホテルのウェブサイトもつながりにくい状態になり、アパグループでは、サイバー攻撃が原因だとみている。元谷氏は、この問題についても
「営業的には、今サイトが止まっている状況ですから、予約ができない。アパの公式サイトから予約ができない。中国からも、予約しようとしたら、その、アレが予約を受け付けないというようなことで、いくらかのダメージは出るかもしれないが、長期的には名前を売るというか知ってもらうというか...」
と述べた。さらに、
「数か月もすると、人は何のことやったか忘れるけど、名前だけ残る。多分、だいたい『人の噂も75日』というわけですから、3月(みつき)もすると『何か大騒ぎやってたけど何やったかな』ということが多いと思う。だからその間のマイナスは、その後の知名度を高めたことでカバーできるのかな、という思い」
との見方を示した。
矛先は日本政府にも
この動画での発言について、「環球時報」は1月23日未明、
「日本の右翼ホテル代表、本は撤去せず 中国人の予約受け付けず」
という趣旨の見出し(原文は中国語)で記事化し、元谷氏が
「中国のウェブサイトで予約したい人もいるだろうが、予約は受けつけない」
と発言した、と報じた。約8分弱の動画でのあいさつを確認する限りでは、元谷氏は、「予約は受け付けない」との直接的な発言はしていないが、韓国の中央日報も環球時報を引用する形で報じている。
結果として、この発言をきっかけに中国外務省が攻勢を強める形になった。1月23日の定例会見で、
「アパグループの元谷外志雄代表は、『物事は起きてから数か月もすれば忘れ去られる』などと客室から右翼的書籍を撤去する意志がないと主張している」
と、発言を問題視する質問が出た。華春瑩報道官はこれに応える形で、
「日本の少数のグループが、歴史上の罪をリセットしようと必死になればなるほど、人々の過去の記憶を呼び起こすことになるだろう。こういった逆行するような行動は、すでに中国国民の強い怒りを引き起こしている」
などとアパグループを批判。華氏の矛先は日本政府にも向けられ、
「責任回避の方便として『言論の自由』を利用すべきではないし、ましてや『過去の歴史に過度に焦点を当てる』などと人々をミスリードすべきではない」
などと主張。その上で、
「日本側には、問題の重さを認識し、その責任を背負い、関連する問題に適切に対処し、日中間に新たな混乱が起きるのを避けるように求めたい」
と対応を求めた。
日本政府は「民間」に関与せず
日本側は静観の構えだ。萩生田光一・官房副長官は1月24日午前の記者会見で、
「中国側の発言や報道について、日本政府としていちいちコメントをすることはしたくない」
と述べたが、一般論として
「過去の不幸な歴史に過度に焦点を当てるのではなく、日中両国が国際社会が直面する共通の課題に未来志向で取り組む姿勢を示すことが重要」
と従来の見解を繰り返した。書籍の問題については次のように述べ、政府としては関与しないとの立場だ。
「民間のホテルがそれぞれのお客様サービスの一環として置いている雑誌等々のひとつだと思っているので、その中身まで政府が精査し、『置いていい』とか『置くな』とか、このようなことを日本政府として発言をするつもりは、今のところない」
中国の国家観光局は国内業者にアパホテル利用中止を要求
そんな中で、中国国営の新華社通信によると、国家観光局が1月24日に会見し、国内の旅行業者や予約サイトに対してアパホテルの利用や広告掲載を見合わせるように求めたと発表した。中国側は
「中国人観光客に対する目に余る挑発であり、観光業界の基本的な倫理に重大な違反をしている」
と主張している。アパホテルのウェブサイトは1月23日には回復したが、中国からの客足が戻るまでには時間がかかりそうだ。