ニューヨークにいる「隠れトランプ派」
でも、声をかけてみると、トランプ支持者を見つけるのは、それほど難しくはない。 25年前にメキシコからやってきたアントニオ・ゲーラ(58)がそうだ。
「僕は共和党支持者でも民主党支持者でもない。候補者によるよ。ヒラリーは好きじゃないけれど、どっちか選ばなければならないとしたら、トランプだ。言葉を飾り立てたりせずに、言ってほしいことを包み隠さず、はっきりと言う。政治の経験や知識がないから、これから学ぶべきことは多いし、庶民のこともどれだけ理解できるかわからないけどね」
地下鉄で民主党支持者の男性と私が立って話していると、その人が電車を降りた時に、目の前に座っていたヒスパニック系の男性、ウエスリー・ニグロンさん(38)が、「君は偏りのない、とてもいい質問をしてたね」と声をかけてきた。彼は警備員で、トランプ支持者だと言った。
「ヒラリーが大統領になっても、現状は変わらない。でもトランプなら、政治の経験はなくても、ビジネスマンとして世界の動きがわかっているし、この国をよくしたいという情熱に偽りはないと思う。彼が偉大な大統領になるかどうかは賭けだが、その可能性は大いにある」
ただ、トランプ支持者であることを、自分から話すことはないという。
「周りはほとんどが反トランプだから、言い合いになるのは避けたいからね」
トランプ反対派の私の友人たちも、トランプ支持者と政治の話はしたくない、ときっぱり言う。
「就任式は見たくないから、ジムでズンバを踊っている」と私に話した女性が、別れ際にしみじみと語った。
「絶望感を抱いている人がアメリカにこれほどいるのに、これまで私が気づきもしなかったということにショックを受けたわ。『私が耐えられるレベルの共和党支持者』が書いた新聞記事を、友人みんなにメールしたところよ」
大統領就任式前後に多くの人の声に耳を傾け、両者の間には深い溝があることを、改めて痛切に感じた。
それだけに、トランプを激しく非難しながらも、彼を支持した人たちを理解しようとする彼女のこの言葉に、私は何か救われる思いがした。
次回は、トランプを支持する友人と見た大統領就任式について報告する予定。(敬称略)
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ドナルド・トランプ氏(70)が第45代大統領に就任したアメリカ合衆国。ニューヨークを中心に米国で暮らしてきた作家でエッセイストの岡田光世さんが、 「トランプのアメリカ」で暮らす人々の思いを報告します。(随時掲載)
++ 岡田光世プロフィール
岡田光世(おかだ みつよ) 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計35万部を超え、2016年12月にシリーズ第7弾となる「ニューヨークの魔法の約束」を出版した。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。