大学・短大・高専・専門学校に進む学生を対象に、返済不要の「給付型奨学金」制度ができる。正式には2018年度スタートだが、私立大の下宿生らに対象を限定して2017年度から一部先行実施される。これまで「貸与型」だけで、卒業して社会に出る段階で何百万円もの借金を背負ってスタートし、取り立ても厳しいなど、「消費者金融並み」との批判もあっただけに、大きな政策変更だ。
今の高校2年生が対象になる2018年度に始まる制度は、月額で国公立大の自宅生2万円▽国公立大の下宿生と私立大自宅生3万円▽私立大下宿生4万円▽児童養護施設出身者には入学金支援として一時金24万円も別途給付――というもの。対象者は住民税非課税世帯の1学年約2万人。全国約5000の高校で1校1人以上採用し、2人目以降は各校の非課税世帯の生徒のうち、貸与型奨学金を使った進学者の割合をもとに配分する。高校の成績が一定以上の生徒や、課外活動などで優れた成果を上げた生徒の中から各高校長が推薦する。具体的な推薦要件は文部科学省が指針を策定する。
参院選を前に急に話が進んだ理由
本格的な運用開始に先立ち、2017年度は児童養護施設出身者と私立大下宿生に月4万円を支給する。
日本学生支援機構に専用の基金を設け、2017年度予算案に70億円を計上し、先行実施分に14億円を充てる。本格実施後の予算規模は年間200億円を超える見込みだ。
給付型奨学金について、国による制度がないのは、経済協力開発機構(OECD)加盟国では日本とアイスランドだけという「不名誉」にもかかわらず、政府は必ずしも積極的ではなかった。
非正規雇用の増加などを背景に格差社会への関心は年々高まり、特に子どもの6人に1人が貧困(相対的貧困率16.3%=2012年)とされ、経済的理由で十分な教育が受けられず、貧困が次世代に連鎖するという悪循環も指摘される。政府も2014年8月に「子供の貧困対策に関する大綱」を閣議決定するなど、「貧困対策」を総合的に進めてきた。ただ、奨学金については、同大綱でも「無利子奨学金制度の充実を図る」などとするにとどまり、給付型への問題意識は低かった。
野党などは前から選挙公約などに掲げていたが、与党が一気に動いたのは2016年に入ってからといわれる。「7月の参院選で格差問題が争点化するとの懸念から、野党の『目玉政策』つぶしの狙い」(全国紙政治部キャップ)というのだ。