アパホテルが「南京大虐殺」を「中国側のでっちあげ」などとする書籍を客室に置いていた問題は、何者かによるサイバー攻撃に発展した模様だ。書籍をめぐる批判が高まったのとほぼ同じタイミングでアパホテルのウェブサイトもつながりにくい状態が続いており、ホテルを運営するアパグループでは、サイバー攻撃が原因だとみている。
ほぼ同じタイミングで、中国外務省の報道官も「歴史を歪曲しようとする勢力がいることが明らかになった」と今回の騒動にコメントし、日本側に対して「国民に正しい歴史的視点を教育」するように要求した。今回の騒動を口実に中国側が改めて歴史問題を蒸し返した形だ。
「異常なアクセス」で「現在もサーバーを復旧できない状況」
騒動は1月15日、中国のSNS「微博(ウェイボー)」に書籍の内容を指摘する動画が投稿されたことをきっかけに発生。アパホテルへの批判が相次ぐなか。1月17日夕方には「書籍を客室から撤去することは考えておりません」などとするコメントを発表していた。
現時点でアパホテルのウェブサイトは、「システムメンテナンスのお知らせ」が表示され、「現在サーバ停止のため復旧作業を行っております」と説明されている。アパグループによると、ウェブサイトがつながりにくくなったのは1月16日の22時頃で、丸3日近くにわたって事実上サイトがダウンしていることになる。詳細な原因については「調査中」だが、
「アパホテル公式サイトへの通常のアクセスの集中ではなく、サイバー攻撃と思われる異常なアクセスが継続しているため、現在もサーバーを復旧できない状況にあります」
としてサイバー攻撃が原因だとみている。
一方で、
「サイバー攻撃を行う場合、攻撃者を隠すため、どこかの国等を経由して攻撃させます。そのため、実際に攻撃を行った国を特定させることは困難です」
とも説明しており、「犯人」が今回の騒動を批判している中国のネット利用者かどうかは、必ずしも明らかではない。
現時点では
「弊社を応援する1万件を超える称賛、激励のコメントをいただいている一方、批判的な内容はごくわずかです」
「現時点では、この件でのキャンセルはほとんどありません」
として予約状況には影響がないと説明している。
中国外務省、「国民に正しい歴史的観点を教育」求める
中国側は、今回の問題を「歴史問題カード」として利用しつつある。1月17日の中国外務省の記者会見で、華春瑩報道官が記者から
「この件が中国と韓国で広く批判されている」
とコメントを求められ、
「関連の報道には留意している。日本国内で、歴史を直視したがらず、歴史を否定、歪曲しようとする勢力がいることが改めて明らかになった」
などとアパホテルを批判。その上で、歴史問題をめぐる従来の主張を繰り返し、日本側に対応を求めた。一民間企業をめぐる騒動をここまで詳細に論評するのは異例だ。同報道官は
「慰安婦の強制連行と南京大虐殺は日本の軍国主義が第2次世界大戦中に犯した人類に対する凶悪な犯罪で、国際社会が認め、決定的な証拠に支えられた歴史的事実だ。時間が経過したからと言って歴史を変えることはできず、事実は、そこから目を背けることを選んだ人がいるからと言ってなくなるわけではない。誠実に歴史に向き合うことによってのみ、未来はあると言える。日本側には正直に歴史を認識して反省し、国民に正しい歴史的観点を教育し、具体的な行動でアジアの隣国と国際社会の信頼を勝ち取るように、改めて求めたい」
とも主張した。
菅官房長官「政府としてコメントすることは控えたい」
これに対して、日本側の姿勢は抑制的だ。
菅義偉官房長官は1月18日午後の会見で、産経新聞記者が
「中国外務省が、こうした民間の言論にまで批判することは極めて異例」
などと指摘したのに対して
「中国外交部報道官の発言ひとつひとつに政府としてコメントすることは控えたい」
と言及を避けた。その上で一般論として
「我が国政府としては、これまでも累次申し上げてきたとおり、過去の不幸な歴史に過度な焦点を当てるのではなく、日中両奥は国際社会が直面する共有の課題、未来志向に向けて取り組んでいる姿勢を見せることが重要だと思う」
と述べた。