【おはよう日本 けんコン!】(NHK)2017年1月17日放送
「高齢者と薬の副作用」
番組では「高齢者の薬と副作用」の話題を取り上げた。多すぎる薬を飲むことを「ポリファーマシー」(ポリ=多くの・ファーマシー=薬)といい、いま医療現場で問題になっている。
ポリファーマシーに明確な定義はないが、5~6種類以上の薬を飲んでいる高齢者は注意が必要だ。
高血圧と水虫の薬が「ふらつき」「めまい」を
高齢者の薬の飲み方と副作用に詳しい東京大学大学院老年病科の秋下雅弘教授がこう解説した。
秋下教授「多くの薬を飲んでいると、薬同士の相互作用の危険性が増します。いろいろな副作用が増える恐れがありますが、特に問題なのが、ふらつきや転倒による骨折。もう1つが認知機能の低下です」
実際、秋下教授らが2012年に行なった調査では、飲み薬の数が多くなるほど副作用を起こす高齢者が増えることが明らかになっている。1~3錠の人は7%だが、4~5錠の人は9%、6~7錠の人は13%にまで増加している。
宇都宮市にある栃木医療センターでは、2015年1月、医師、薬剤師、看護師、地域連携室などによる「ポリファーマシー対策チーム」ができた。病院の中だけでなく、地域のクリニックや薬局との連携にも取り組み始めている。3年前に薬の飲みすぎにより、入院患者が深刻な副作用を起こしたことがきっかけだ。内科医長の矢吹拓医師がこう語る。
矢吹医師「(その患者の)主治医が処方した薬に対し、それを入院中に整理するとか減らすとかいう行為は、患者さんからあまり好まれません。なかなか積極的に介入することにつながらなかったのが理由です」
具体的な対策はこうだ。入院した患者のうち5種類以上の薬を飲み、副作用の危険がある高齢者をリストアップ。患者の同意を得たら、薬剤師らが現在、飲んでいる薬やその理由について患者本人をはじめ、家族や主治医からも情報を集める。
2016年末に太ももの付け根を骨折して入院した79歳の男性Aさんも、入院を機に薬を見直すことにした。骨折の原因が薬の飲みすぎによる「ふらつき」の副作用の可能性があるからだ。Aさんは7年前に脳梗塞を患い、介護が必要になった。現在は次の6種類の薬を服用している。「脳梗塞の再発予防薬」「血圧を下げる薬」「高コレステロールを下げる薬」「胃炎を抑える胃薬」「爪水虫の薬」「物忘れの進行を抑える薬」だ。それらを総合診療医の診療のもと、家族とも相談しながら薬の見直しを行なった。
総合診療医「いちばん気になるのは血圧の薬です。ふらふらするとか転ぶのは、血圧の薬の副作用が考えられます。一回やめてみるか、もしくは半分にするか、どちらがいいですか?」
Aさんの次女「いきなりやめると怖いので半分くらいに」
総合診療医「爪水虫の薬もふらつきにつながっていますよ。(Aさんの足の爪を診ながら)けっこう良くなっていますね」
家族と相談して見直した結果、ふらつきの副作用のリスクがある「爪水虫の薬」を中止、「血圧の薬」と調子がよくなっている「胃の薬」を半分の量に減らし、残りの「脳梗塞の再発予防薬」など3種類を継続することにした。
Aさんの次女「血圧の薬は飲み始めたらずっと飲み続けるイメージがありますから、減るのが意外でした」
薬を減らし元気になった高齢者に医師が「ショック」
こうした薬の変更は、地域の医療機関にも情報提供をしている。その1つ、宇都宮協立診療所の関口真紀所長はこう語る。
関口医師「すごく具合が悪く、まあ高齢だから仕方がないかなと思っていた方が、栃木医療センターで薬を減らし元気になって帰ました。それは私個人としては結構ショックでした」
栃木医療センターで、「ポリファーマシー解消」の取り組みを始めて2年。薬の見直しを行った患者の薬の数は平均で9錠から5錠に削減した。ただ、薬を減らせばいいというものでもない。素人判断で勝手に減らすのがいちばん危険だ。冒頭に登場した秋下雅弘東京大学教授はこうアドバイスした。
秋下教授「高齢者の薬との付き合い方で大事なのは、医師や薬剤師には必ず使っている薬を伝えることと、自分だけの判断で薬を中止しないことです」