ヤマトHDに迫る「異常事態」 「取扱量が過去最高」でも喜べない

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   ヤマトホールディングス(HD)は2017年1月10日、16年の宅配便の取扱量が、前年比8.9%増の18億4121万個と、過去最高を更新したと発表した。「アマゾン」をはじめとする通信販売による商品配送需要が高まっていることが大きい。ただ、年末には佐川急便の配達に遅れが出るなど、業界全体として人手不足への対応が追いついていない面も否定できない。人件費増などから業績もうなぎ上りとはいかないようだ。

   運送業界で昨年末、大きな話題となったのが、佐川急便の男性従業員が配達中の荷物を投げたり蹴ったりしている動画がインターネット上に投稿されたこと。人手不足で仕事がきついことにイライラする運送業界の象徴とされた。関係者によると、投稿者は不明で、時期は12月上旬、場所は東京都内。とあるマンション前の階段付近で、佐川急便の青い制服を着た男が荷物の載った台車を放り投げたり、荷物の入った段ボールを蹴ったりする様子が映る。従業員は配達先が不在で荷物を持ち帰る途中だったという。佐川は事実関係を認めて「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。モラル教育を徹底し、再発防止に努めます」と陳謝した。

  • ヤマト運輸HPのスクリーンショット
    ヤマト運輸HPのスクリーンショット
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人材確保の費用が膨らむ

   例年、年末はお歳暮やクリスマスプレゼントの配達などで需要が立て込むかき入れ時だが、配達が追いつかない事態も珍しくない。2016年は12月下旬に佐川で配達に1~2日の遅れが出たため、佐川はホームページで「全国的に集荷、配達の遅延が見込まれる」と掲載した。地域別の配達需要に応じて人員を増やして対応したものの、荷物の増加量が予想以上だったという。ヤマトや日本郵便は年末需要増による全国的な遅れはなかったようだが、「綱渡りでかなり厳しい状況だった」(ヤマト関係者)。

   ヤマトは国内宅配便市場で約5割のシェアを持つ最大手。2016年12月の取扱量は前年同月比5.6%増の2億3404万個となった。伸び率は年平均をやや下回ったとはいえ、取扱量は通常月の約2倍に達した。通常の2倍の量の荷物をヤマトの従業員だけで配達するのは無理なので、対応できない分はアルバイトを増やしたり、下請けの運送会社へ委託したりしてしのぐ。一時的に人手が足りないのはどの運送会社も同じで、人手の奪い合いが起きるため、ここで人材確保の費用が膨らむわけだ。日本郵便が2017年から年賀状配達の1月2日休止に踏み切ったのも、人材確保の問題があるためだ。

「不在再配達」と過剰サービス問題

   特に業界にとって悩ましいのが、問題となった佐川のインターネット動画で従業員がイライラを募らせる原因の一つとなったともみられている「不在再配達」だ。現状では業界として2割程度が不在再配達の対象となっている模様だが、基本的に追加料金は発生しておらず、業界の負担となっている。中には「顧客が日時を指定しておきながら不在で再配達」ということもある。日本らしい過剰サービスとも言えるが、年末などにはもはや維持不可能かもしれない。もちろん、「家にいるのが1人でトイレに入ってて出られなかった」なんてこともあるだろうが、それもこれも無料ゆえに顧客側に負担感がないから、気軽に再配達を要請するということで悪循環になっているわけだ。

   日本経済新聞は1月8日付朝刊で、ヤマトHDの2016年4~12月期連結決算は人材確保費用が膨らむため、営業利益は前年同期比で1割減の見通しだと報じた。報道の通りとなれば、宅配便の取扱量が過去最高を更新するなかで異常事態と言える。配達需要は今後も増加が見込まれるだけに、「再配達の有料化」などの対策を講じて無料再配達を減らすなどしなければ、業界全体が年末などの需要ピークに対応できなくなる可能性もありそうだ。その結果、困るのはいうまでもなく消費者。ここは「過剰サービス」問題の考えどころかもしれない。

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