東京大学医学部付属病院は2017年1月11日、高齢者の耳のうしろから微弱な電流を流すと体のバランスが改善する装置の開発に成功したと発表した。寝たきりや認知症の原因となる体のバランス障害を改善する新しい治療法の開発が期待される。
この成果はすでに英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」(電子版)の2016年11月21日号に発表されている。
高齢者の20~50%が発症「バランス障害」の治療に
同病院の1月11日付発表資料によると、耳の奥にある平衡感覚をつかさどる前庭器官が、体のバランスを保つのに重要な役割を果たしている。前庭器官の働きが悪くなると「バランス障害」を発症する。高齢者の20~50%が発症し、めまいやふらつきを引き起こす。転倒や骨折の原因となり、寝たきりや認知症につながるが、現在、有効な治療法はないという。
研究チームは、これまで耳の後ろに装着した電極から微弱な電流を加え前庭器官に電気刺激を与えると、体のバランス機能が改善することを明らかにしてきた。しかし、刺激の停止後に効果が続くのは30秒間だけだった。そこで今回、新たな装置を開発、64~70歳の健康な30人を対象に長時間の改善を維持できるかどうか実験した。電源装置はスマートフォンほどの大きさで、持ち運びが可能だ。そこからコードで両耳の後ろに装着した電極に電流を送る仕組みだ。痛みや不快感が生じない程度の微弱な電流を30分間と3時間、それぞれ流した。体のバランス機能は、重心動揺検査台という揺れ動きやすい台の上に立ち、目を閉じた状態で直立姿勢を保てるかで評価した。
その結果、30分間でも3時間でも刺激停止後、数時間にわたりバランスの改善効果が持続した。また、30分間刺激を4時間の間隔を空けて繰り返すと、刺激停止後の改善効果が強まり、効果の持続時間も長くなることがわかった。
研究チームは発表資料の中で「常に電流の刺激をしなくても体のバランスが長い時間改善することがわかりました。新しい治療法の開発につながる成果です。今後は、前庭器官に障害がある患者に対して、この装置が長期的なバランス改善効果を示すことを証明する試験を行ないます」とコメントしている。