東芝が再び巨額損失の危機に直面している。米原子力事業で数千億円規模の損失が生じる見通しになったためだ。2016年6月に就任した綱川智社長のもと、不正会計問題から再出発して約半年でまた難題が持ち上がり、同社のガバナンス(企業統治)不全を問う声も強まっている。
「皆様にご心配、ご迷惑をおかけすることを心よりお詫び申し上げます」。綱川社長は2016年12月27日の記者会見で深々と頭を下げた。
米国の原子力事業で数千億円規模の損失見通し
会見で発表されたのは衝撃的な内容だった。東芝の米原発子会社ウェスチングハウス(WH)が、2015年12月に買収した米原子力企業「CB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)」と共同で進めていた米国での原発建設プロジェクトを精査した結果、人件費などの建設コストが大幅に膨らむ見通しになったという。
巨額の追加コストの存在を綱川社長ら経営陣が把握したのは16年12月中旬になってから。原発事業担当の畠沢守常務は会見で「十分に評価したが、1年で差が生じた」と釈明するが、「買収時の査定が甘かったのではないか」(アナリスト)との疑念はぬぐえない。巨額損失リスクの把握に1年もかかったことについて、市場では「東芝経営陣は米原子力事業をグリップできていない」と冷ややかな見方が広がっている。
東芝は2月の第3四半期決算発表までに損失額を確定する方針だ。損失額は1000億~5000億円の間とみられる。S&Wの資産価値をどれだけ厳しく見積もるかによって大きく変わるだけに、投資からの不安感、不信感は募る一方だ。
東芝の財務の健全性を示す自己資本比率は2016年9月末時点で7%強と低く、「S&Wの追加コストがなくても、資本増強が課題だった」(関係者)。幸い、足元の円安基調や半導体事業の堅調な業績のおかげで、損失リスク発覚前は2017年3月期の収益は上ぶれが見込まれていた。今のところ、東芝社内や取引銀行では「債務超過という最悪の事態は回避できる」との見方が強いが、財務の悪化は避けられず、何らかの資本政策が必要になりそうだ。
国内原子炉メーカーの再編に現実味
東芝は不正会計問題の発覚後、東京証券取引所から投資家に注意を促す特設注意市場銘柄に指定されており、公募増資など市場から幅広く資金を調達できる状況にない。資本を厚くするには、半導体などの分社化や事業売却、取引銀行からの支援などが想定される。しかし、主力の半導体事業を売れば「東芝は稼ぎ頭を失い、じり貧になる」(関係者)。大手行も、融資以上に損失リスクが高い「債務の株式化」などの踏み込んだ金融支援には及び腰だ。当面、融資残高を維持するものの、今後は支援をめぐり、東芝と取引銀行との間でぎりぎりの駆け引きが繰り広げられそうだ。
また、今回の巨額損失問題では、原発事業の底知れないリスクも浮き彫りになった。東芝は2016年3月期にも原発事業で損失を計上したにもかかわらず、再び新たな損失が生じたことで、原発事業のコスト管理の難しさが改めて認識されている。東芝は原発事業を半導体などと並ぶ主力事業と位置づけてきたが、ハイリスクの原発事業に依存した経営のままでいいのか、戦略の抜本的な見直しを迫られそうだ。
2011年の東日本大震災の発生後、国内の原発新設は難しい状況が続く。経済産業省は、日本の原発産業の生き残りに向けて、東芝、日立製作所、三菱重工業の原子炉メーカー3社の統合を模索している。巨額損失によって東芝の経営が揺らげば、国内原子炉メーカーの再編が現実味を帯びてくるとの見方も出ている。