「僕たち、停電でも平気だよ」と視覚障害者。「目が見えないのが状況によっては強みになる」という。障害を抱える人たちのそんな「あるある」ネタが、紙芝居になった。体の不自由な人たちが自ら制作に携わった。
障害者から見える社会がどんなものかを、ちょっとした笑いも交えつつポップなイラストと言葉で伝えている。
障害者から見える社会を、実体験をもとに描く
紙芝居「障害者あるある ~え?そんなことあるの?~」は、東京都立川市のNPO法人「自立生活センター・立川」を中心に民間の人々が制作した。
紙芝居制作に携わった同NPOの奥山葉月さんが2017年1月12日、J-CASTヘルスケアの取材に答えた。奥山さん自身も障害を持ち、車いすで生活している。制作のきっかけは、市が策定に向けて議論を進める「障害のある人もない人も共に暮らしやすい立川をつくる条例(仮称)」だ。「まずは『障害者から見える社会はこんな感じです』というのを、すべての人に知っていただきたいと思って作りました」と明かす。
紙芝居の内容は、障害を抱える当事者たちが語った実体験に基づいており、提供された50以上の事例から22のエピソードに絞ってまとめた。16年4月に作り始め、「最近ようやく完成しました」と奥山さんは言う。また、
「ただ真面目に伝えたのでは印象に残りづらいと思い、事例を提供していただいた方のお話をもとに、ちょっと笑える要素も盛り込みながら作りました。障害のない人にも実際の場面がイメージしやすくなるよう心がけています」
と話す。そこには「障害があるのは確かに大変ですが、同じ社会で生活しています。重苦しくとらえすぎる必要はないのではないかと思います」との考えもある。
たとえば、冒頭の視覚障害の事例は、多くの客が利用する飲食店で停電が起きた状況を描く。店員が「その場所でじっとしていてください!」、客が「きゃー!何も見えない」と騒然とする中、視覚障害の男性は「自分には停電関係ありません」と思いながら平然とお茶をすすっている。紙芝居を見せながら読む文章には
「大変なことも多いけど、環境によっては、強みになることもあるんですね。停電のときは視覚障害の人にガイドヘルプしてもらうのもいいかもしれません」
との一節がある。
「店内は」バリアフリーだけど、入り口が...
不便な状況を描いた紙芝居もある。車いすを使う女性が訪れた店には、入り口の扉に「店内はバリアフリーとなっております」と掲示があったものの、扉の手前には2段の段差があった。女性は店に入れず、口を開けて「店内だけ...」とぼう然としている。
奥山さんは「障害のある人々には本当に『あるある』と感じる不便さでも、健常者には気付きにくい、という事例もあると思います」と話す。その上で、「すべての人に分かっていただけるよう、ただ事例を紹介するだけでなく、具体的に何が問題か、どうすれば暮らしやすくなるかを、読み上げる文章でできるだけ補足するようにしました」とし、事例提供者と何度も打ち合わせながら、より理解が進みやすい言葉を考えたという。
「視覚障害や聴覚障害、車いすの苦労は比較的イメージしやすいかと思いますが、精神障害や知的障害、高次脳機能障害はどんな困難を感じているかが伝わりづらいため、言葉でどう伝えるかは頭をひねりました」(奥山さん)
紙芝居は、小中学校の依頼を受けて障害者教育を行う「出前講座」や民生委員の活動などで、2017年4月以降に運用していく予定だ。