男性に比べて手が温かいため、女性が寿司を握ると「ネタの鮮度が落ちる」――。寿司「通」の間で盛んに囁かれているこの風説は、本当なのだろうか。
確かに、寿司屋の板場に立つ女性職人は少ない。寿司をはじめとした職人養成学校「飲食人大学」の広報担当者によれば、世界的なグルメ本『ミシュランガイド』に掲載されたことのある寿司店の中で、女性職人がいる店は「たった1件しかない」という。
「ミシュラン」掲載で女性職人は1件だけ
大阪市に2014年12月にオープンした「鮨 千陽(ちはる)」。17年のミシュランガイド京都・大阪版で、コストパフォーマンスに優れた店が選ばれる「ビブグルマン」部門に認定された人気店だ。
本格的な江戸前寿司を破格な値段で提供する同店が注目を集めたのは、寿司店としては「異例」ともいえるほど多くの女性職人を抱える点だ。17年1月現在のところ、12人の職人のうち女性は4人。板場を率いる「大将」も女性職人だ。
そんな「鮨 千陽」を運営するのは、職人養成学校の「飲食人大学」だ。同校の広報担当者は17年1月10日のJ-CASTニュースの取材に、
「実は、これまでにミシュランガイドに掲載されたことのある寿司店で、女性が寿司を握る店は『千陽』が初めてです」
と話す。
なお、ミシュランの掲載歴がある国内の飲食店を紹介しているウェブサイト「クラブミシュラン」で、「寿司」と検索すると426店舗がヒットする。つまり、その中で女性職人が寿司を握っている店は「鮨 千陽」たった1店だけということだ。
いったいなぜ、女性の寿司職人の数はここまで少ないのか。その理由について、愛好家の間では、
「男性に比べて手の温度が高い女性が握る寿司は、ネタの鮮度が落ちて『美味しくない』」
という点がよく指摘される。
実際、女性寿司職人の話題を取り上げた1月5日放送の情報番組「ユアタイム」(フジテレビ系)でも、番組に出演した複数の女性職人が「手が温かいから美味しくないんでしょ」と客に言われた経験があると明かしていた。
寿司業界に残る「女人禁制」体質
女性が握る寿司は「ネタの鮮度が落ちて美味しくない」という風説は、事実なのだろうか。ある寿司学校関係者は取材に対し、「そうした噂が出回っていることは確か」と認めた上で、
「全くもって事実と異なります。そもそも、手の平の温度に男女差があるわけはなく、どちらかと言えば個人差の問題でしょう」
ときっぱり否定する。
この寿司学校関係者によれば、寿司を握る職人の手の温度が高いと、米粒が手の平に付きやすくなったり、ネタが温まってしまう可能性などが考えられるという。ただ、こうしたデメリットが生じるのは「初心者」の場合だけ。修行を積んだ職人であれば、全くもって影響を受けない程度の問題としていた。
では、なぜ女性寿司職人は少ないのか。関係者は、
「寿司は古くからの伝統料理ということもあり、業界内に『女人禁制』という保守的な体質があります。神聖な調理場は『男性の場所だ』という古い言い習わしのなごりのようなものが、今も残っているんですよ」
と話す。実際、多くの未経験者を生徒として抱えるこの学校でも、女生徒の割合は生徒全体のたった2割程度だという。
ただ、「一昔前と比べると、女性職人を受け入れる寿司店は増えている」という。
「若い世代の職人を中心に意識改革が行われて来ており、以前よりも『女人禁制』の風土が薄まってきていることは事実です」
とも話していた。この寿司学校でも、女生徒の卒業後の就職先を紹介したり、店側に女性職人を受け入れて貰えるよう掛け合うなど、「女性職人が働きやすい環境作り」に努めているという。