大手牛丼チェーン「吉野家」などを運営する吉野家ホールディングス(HD)の株価がここへきて上昇基調だ。2016年秋以降、一時伸び悩んでいたが、大納会を控えた年末から連日、年初来高値を更新し、上値を追う展開になった。年が明けてからも勢いは衰えず、連休明け1月10日の終値は前週末比1円高の1640円と、年末から10営業日連続の上昇となった。
10日は一時、5日の取引時間中につけた1647円を上回る1650円をつけ、昨年来高値も更新した。「トランプ相場」による円安・ドル高は輸入食材を扱う牛丼には逆風のはずだが、売り上げ・利益の増加への期待も込めて買われているようだ。
電子レンジで再加熱することも可能な容器を開発
投資家が好感しているのは、今冬の気温。地球温暖化が進む近年としては低めに推移していることで、吉野家が「冬の定番」と位置づける単価の高い「牛すき鍋膳」(今冬は2016年11月1日スタート)が売れるとみられている。何しろ牛丼の並盛りが380円(税込、669キロカロリー)のところ、牛すき鍋膳は並盛りで650円(1014キロカロリー)だ。昨シーズンより20円値上げされている。牛すき鍋膳は1人用のすき焼き鍋と生卵、ご飯、香の物がつく。冬場には見た目だけでも牛丼よりは体が暖まりそうだ。客の嗜好が外気の寒さで牛すき鍋膳にシフトしてくれれば、客単価は牛丼の2倍近くなる。
吉野家自身、牛すき鍋膳には力を入れている。販売を始めてから4シーズン目の今冬は、牛肉を細切れでなく大判型(昨シーズンの2倍の大きさ)にし、野菜は新たに水菜とニンジンを加えて増量した。野菜は大人が1日に必要とされる量(350グラム)の約半分になったといい、野菜不足を気にする中高年男性の心を動かす作戦だ。今シーズンからは持ち帰りにも対応。保温性が高く、持ち帰った家庭やオフィスの電子レンジで再加熱することも可能な容器を開発した。
さらに今シーズンは、地域別のご当地鍋メニュー(並盛り680円)も投入。具体的には全国を5地域に分け、地域ごとによく使われるだしを使用し、「北海道豚味噌鍋膳」(北海道・東北・北関東・新潟)、「横浜デミ牛鍋膳」(東京・神奈川・千葉・埼玉・山梨)、「なごや鶏味噌鍋膳」(東海・富山・石川・福井)、「なにわ牛カレー鍋膳」(関西)、「博多とんこつ鍋膳」(中国・四国・九州・沖縄)を販売(その後、関西・信越地方は「うま塩牛鍋膳」、首都圏は「北海道豚味噌鍋膳」になり、4地域ごとのメニューになっている)。
「1人鍋需要」取り込もうと、業態超えた動き
「牛すき鍋膳効果」は業績にもジワリと表れ始めている。吉野家HDは大手流通業と同じ2月期決算。2016年8月中間決算では、牛丼店の既存店売上高は前年同期比0.7%減だったが、3~11月期決算では既存店売上高が1.0%増とプラスに転じた。12月に入って寒さは厳しさが増しただけに、投資家の期待が高まっているわけだ。
ただ、目端の利くセブン‐イレブンが「野菜がとれる1人用キムチ鍋」を投入するなど、業態を超えて「1人鍋需要」を取り込もうとする動きも活発になっている。吉野家のヒット商品「牛すき鍋膳」が今冬、どこまで健闘するかは「ご当地メニュー」を含めた日々の改善にかかっていると言えそうだ。