交通量が多い幹線道路の近くに住んでいると認知症のリスクが高まるという研究をカナダのオンタリオ州公衆衛生局のチームが大規模調査でまとめ、英医学誌「Lancet」(電子版)の2017年1月4日号に発表した。
道路に近いほどリスクは高くなり、研究者は「大気汚染物質の影響」の可能性を示唆している。2017年1月5日付のCNNやロイター通信など海外メディアが報道した。
200メートルまでは道路に近いほど危険性が高まる
同誌の論文要約によると、研究チームはオンタリオ州に住む20~85歳までの男女約650万人を対象に、居住地の幹線道路からの距離と3つの認知障害関連の病気の発症リスクとの関係を約10年間追跡調査した。3つの病気とは「認知症」「パーキンソン病」「多発性硬化症」だ。多発性硬化症は脳や脊髄、視神経などの中枢神経に炎症が起こり、視覚障害や感覚低下などの神経症状が進行する病気で、現在のところ根治する方法はなく、国の難病に指定されている。居住地の幹線道路からの距離は、郵便番号に基づいて測定した。
調査期間中に、認知症は24万3611人、パーキンソン病は3万1577人、多発性硬化症は9247人がそれぞれ発症した。糖尿病や脳障害などの持病、経済状況、帯域汚染の状態などの要因を考慮し、それぞれの病気の発症リスクと幹線道路からの距離を分析すると、次のことがわかった。
(1)幹線道路から50メートル未満に住んでいる人は、300メートル離れた人を基準にすると、認知症の発症リスクが約7%高い。50~100メートルの人は約4%、101~200メートル未満は約2%高くなる。200メートルを超えると、ほとんどリスクが消える。
(2)ただし、パーキンソン病と多発性硬化症の発症リスクでは、幹線道路からの距離との関連はみられなかった。
研究チームのレイ・コープス氏は、ロイター通信の取材に対し、「1回だけの調査では因果関係は立証できない」としつつ、「大気汚染物質が血流に入り込み、心臓疾患や糖尿病につながる炎症を引き起こすことが知られています。今回の研究は、大気汚染物質が血流に乗って脳に達し、神経系に問題を起こす恐れがあることを示唆しています」と語っている。