「歩きスマホ(スマートフォン)が危ない」と問題になっているが、使わずに単にそばに置いてあるだけでも注意力を奪うという驚きの研究が発表された。
北海道大学の研究チームが日本心理学会の国際誌「Japanese Psychological Research」(電子版)の2016年12月26日号に論文を掲載した。
無意識のうちにスマホを気になり、作業成績が悪く
この論文と北海道大学の2017年1月4日付発表資料によると、スマホを使いながら他のことをすると、見落としや判断が遅れることはよく知られているが、使用せずにそばに置いている時、注意力にどんな影響を与えるかは不明だった。そこで、同大学の河原純一郎・特任准教授らは次の方法で実験を行ない、注意力に及ぼす効果を測定した。
(1)18~23歳の男女学生40人(男子10人、女子30人)を、スマホを持つグループ20人と、メモ帳を持つグループ20人の2つに分ける。
(2)それぞれのグループにコンピューター画面での作業課題を与え、かかった時間を測定し成績を比較する。
(3)課題は、コンピューター画面から「T」という文字を探し出し、クリックする。「T」は時計回りに90度、180度、270度回転したものがランダムに次々と表示される。画面には「T」と紛らわしい「L」の字がたくさん現れるため、その中から素早く「T」を探し出すには注意力と集中力が必要だ。
(4)作業中、スマホグループはスマホを、メモ帳グループはメモ帳を、それぞれコンピューター画面のそばの目につきやすい場所に置いておく。なお、スマホとメモ帳は同じ大きさだ。
(5)実験後、参加者全員に毎日どのくらいの時間スマホを見るか、使用頻度を聞いた。
こうして、2つのグループは80回作業を行ない、探索にかかった時間を比較すると、スマホグループの方が成績は悪かった。「T」を1つ探し出す平均時間は、メモ帳グループが約3.0秒だったのに対し、スマホグループは約3.7秒かかった。これは、単にスマホが置いてあるだけで自動的に注意が向いてしまい、集中力を欠く結果になったと考えられるという。
スマホを普段からよく使う人は「魔力」に負けない?
ただし、この注意力を奪う効果は、スマホの使用頻度の低い人に強く表れ、スマホを普段からよく使っている人は、スマホをそばにおいた状態でも探索時間が約3.1秒と、メモ帳グループ並みの成績だった。むしろ、スマホを置いてある側の「T」の字に気づきやすいこともわかった。
この結果について、河原特任准教授は発表資料の中でこうコメントしている。
「実験では、画面を消した他人のスマホであっても、ただそばに置いてあるだけで本来向けるべき場所への注意が阻害されることがわかりました。この影響は普段スマホを使わない人ほど強い傾向があります。こうした効果が起こる原因は2つ考えられます。1つは、スマホは置いてあるだけで自動的に注意をひきつけること。もう1つは、スマホの存在を無視したり、注意したりする働きに個人差があることです」
それにしても、スマホは置いてあるだけでなぜ注意をひきつけるのか。河原特任准教授は発表資料の中で「日常生活の中で、メールの返事が来ないか、SNSの通知が来ないかなど、使用していなくても注意を向けていることはないでしょうか」と推測している。