韓国・釜山の日本総領事館前の路上に市民団体が従軍慰安婦をモチーフにした少女像を設置した問題で、菅義偉官房長官は2017年1月6日午前の記者会見で、在韓国大使や総領事の一時帰国を含む対応策を発表した。
日本政府が駐韓大使を一時帰国させるのは、李明博(イ・ミョンバク)前大統領が竹島(韓国名・独島)に上陸を強行した12年8月以来、4年5か月ぶり。職務停止状態で「死に体」の政権が実質的な行動を起こすことは困難だとみられ、このまま日韓関係は再び4年前の水準に冷え込む可能性が高くなってきた。
通貨スワップ協議も中断
15年末の日韓合意では、すでにソウルの日本大使館前に設置されていた慰安婦像について
「韓国政府は、日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し、公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し、韓国政府としても、可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて、適切に解決されるよう努力する」
と言及されていた。合意で韓国政府が慰安婦像の撤去を確約したわけではないものの、撤去に向けた具体的な「努力」も見えないままの釜山での慰安婦像に、日本側が業を煮やした形だ。菅官房長官は記者会見で、釜山での慰安婦像について
「本件は日韓関係に好ましくない影響を与えるとともに、領事関係に関するウイーン条約に規定する領事機関の威厳等を侵害するものと考えており、同条規定に照らしてきわめて遺憾」
として、当面の間(1)在釜山総領事館職員による釜山市関連行事への参加見合わせ(2)長嶺安政・駐韓国大使および森本康敬・在釜山総領事の一時帰国(3)日韓通貨スワップ取り決めの協議の中断(4)日韓ハイレベル経済協議の延期、の4つの措置を取ることを発表した。
日本側の立場を「この4項目という形で示した」
菅氏は、日本側の立場を「この4項目という形で示した」として、
「我が国の立場を明確に示した、ということ。当然、お互いに合意の着実な実施を求めていくのは当然のこと」
「日本と韓国はまさに隣国であって、きわめて重要な国。そういった中で今回、このような措置を取らざるを得なかったのはきわめて残念だが、そこはお互いに国と国として約束したことは実行してほしい、そういう強い思いだ」
などとして合意の履行を迫った。
日本側の強硬姿勢に対する韓国側の反応は鈍い。韓国外務省の報道官が発表した談話では、日本側の措置を「非常に残念に思っている」とした上で、「両国間の難しい問題があっても、両国政府間の信頼関係をもとに、日韓関係を持続的に発展させていくことを改めて強調したい」とした。合意の履行や慰安婦像の撤去といった具体的な行動への言及はなく、政権の「死に体」ぶりを改めて浮き彫りにした形だ。