賃貸マンションやアパートが急増している。
2016年暮れ現在、「足もとでは郡部、町村部でも新築物件が増え続けています」と、ニッセイ基礎研究所社会研究部の准主任研究員、塩澤誠一郎氏は話す。その一方で、「空室リスク」を指摘する声が少なくなく、首都圏でも賃料が急速に下落しているとの情報もある。
相続税対策などで「過剰供給」指摘も
相続財産の評価は、現金で保有しているよりも、土地や建物に換えたほうが3割ほど低くなる。さらには土地を更地で所有しているより、賃貸住宅を建てたほうが2~3割下げられるので、その分相続税の支払いが少なくて済み、節税になる。
こうしたことから、相続税対策として賃貸マンションやアパートを建築するケースは、従来から都心部を中心に少なくなかった。
一方、最近になって賃貸住宅が増えた理由は2つ。1つは団塊世代の相続税対策。相続税は2015年1月、非課税枠だった基礎控除の引き下げや税率が見直され、増税された。そのため、これまで相続税を納める必要がなかった人が新たに対象に加わり、こうした団塊世代らの資産家層が節税効果を狙って銀行から借金して、賃貸マンションやアパート経営に乗り出したというわけだ。
もう一つは、日本銀行のマイナス金利政策がある。マイナス金利によって利ザヤが縮小した銀行が、一般の住宅ローンよりも利ザヤが稼げる、いわゆるアパートローンに活路を見いだしたことがある。
借り手側の資産家も、低金利なので資金を借りやすい。節税したい資産家と融資を伸ばしたい銀行の思惑が一致した結果、賃貸マンションやアパートが急増した。
国土交通省が2016年12月27日に発表した11月の新設住宅着工戸数は、前年同月に比べて6.7%増の8万5051戸で、5か月連続で増加。このうち、貸家は3万8617戸で、15.3%増の2ケタ増。じつに13か月も連続で伸びている。
ただ、懸念されるのは過剰供給だ。部屋の借り手が見つかれば問題ないが、首都圏などでも空室が増える兆しがあるようだ。12月14日付の日本経済新聞は、銀行同士の賃貸マンションやアパート向け融資の過熱競争を警戒して、金融庁が地方銀行などに対して「節税効果などの実態や空室リスクを調査する」と報じた。
最近は、不動産会社や建築業者などが一定期間の家賃収入を保証して、空室や、家賃の滞納や下落などのリスクをオーナーに代わって肩代わりしてくれる「サブリース」が人気で、オーナーのメリットを強調して積極的な営業活動を展開。賃貸マンションなどの建設を後押ししている側面がある。
ある不動産アナリストは、「賃貸物件の営業にそそのかされ、それに便乗する銀行が融資をつけて、数多くの物件が供給されることで賃料相場が軟調に推移する可能性が高まっています」と指摘する。
賃貸物件は「立地が最重要」
そうしたなか、すでに賃料の激しい下落が起っているエリアがあるとの指摘がある。
ニッセイ基礎研究所の塩澤誠一郎氏は2016年12月26日のJ‐CASTニュースの取材に、
「供給過剰による空室が増えるリスクは高まります。とくに立地に左右されやすい賃貸住宅市場では、(郡部などの)郊外ほど不良ストック化する懸念があります」という。「賃貸物件は需要が低いと当初の想定よりも入居率が下がり、そうなると賃料も下げざるを得なくなります。郡部、町村部は足もとでは(新築物件が)増えていますが、もともと都心部と比べると立地がよくないので賃料も下がりやすい傾向にあります」
と話す。
また、前出の不動産アナリストは、「たとえば群馬県高崎市などでは、一時期にまとまって供給されたワンルームに人が入らず、賃料が大きく下がっている例があります」という。
同じような傾向は、神奈川県相模原市や千葉県流山市あたりでも散見されるが、ただ、「安ければ安いなりに賃借人はつくもの」ともいい、さすがにワンルームで当初5~6万円台の物件が1~2万円台にまで下落するというケースはほとんどないようだ。
一般に、賃貸マンションやアパートの賃料は、通勤や買い物などの生活利便性や、子育て環境や医療、騒音、町の雰囲気といった周辺環境、さらには防災や防犯(治安)などの安全性に、住み心地や住宅性能のレベルといった居住の快適性などで決まる。また、都心から近郊にかけては下がりにくく、郊外から地方圏で下がりやすい傾向にあり、さらに築年数が進むに連れて顕著になるとされる。
つまり、賃貸物件は「立地が最重要」というわけだ。不動産アナリストは「賃料水準そのものが資産性にも影響を与えますし、賃料相場が高い地域は居住ニーズの高い地域ですから、結果的に資産価値も落ちにくいわけです」と説明。駅近くの賃貸マンションと、駅からバス便を使うような立地の賃貸マンションとでは、その「格差」が広がりつつあるという。