1万円分勝った後...
何回かの勝負を終えて、1万円ほど勝っていることに気付く。とたんに我に返り、引き留める男に頭を下げながら、卓から逃げるように離れた。
チップを窓口で換金して、ようやく一息をつけた。1万円。落ち着いて考えれば、結構な大金だ。思わずにやにやしていると、後ろから肩を叩かれる。さっきの男が、笑顔で立っていた。
握手を求めてくる。どうやら祝福してくれているらしい。こちらも「謝々」を連発するが、男は微笑みを崩さないまま、自分の腹に手をやる。「お腹が空いた」と言いたいらしい。きょとん、としていると、男は指を1本立てた。そう、つまり男はこう言いたいのだ。
「これだけでいいから。金よこしな」
背筋に冷や汗が流れる。何のことはない。記者は最初から、良い「カモ」だったようだ。従業員もそばを通るが、気づかないのか見てみぬふりか、そのまま素通りだ。「1」とはいくらか。混乱しながらも財布を取り出す。まごまごしていると、男はさっき換金したばかりの1万円分の紙幣を指差した。
紙幣を手渡すと、男は素早くポケットにそれをねじ込んだ。相変わらずの笑顔だ。男は「それじゃ!」というように手を振り、再び賭場へと消えていった。
それ以来、記者はカジノへ足を踏み入れる気になったことはない。
政府は2017年内にも、カジノを実際に設置するために必要な、IR実施法案を策定、国会へと提出する見込みだ。合わせて、カジノを含むギャンブル依存症への対策を話し合い、法整備なども検討中と報じられている。