軍資金5万円、気さくに話しかけてきた中華系の男
記者はバカラの5000円の卓に着いた。軍資金は5万円だ。
ゲームに参加するには、まずディーラーに、手持ちの現金をチップに変えてもらう必要がある。だが、その方法がまずよくわからない。紙幣を手にまごまごしていると、隣に一人の男が、にこにこしながら腰かけた。やはり中華系の、眼鏡をかけた優男だ。30代くらいだろうか。
「お兄さん、初めてかい?」
......というようなことを、おそらくは言ってきたのだと思う。向こうも言葉は通じないと察し、身振り手振りに切り替える。どうも、チップ交換の仕方をレクチャーしてくれているらしい。素直に従うと、無事に現金がチップになって返ってきた。
その後も、男はジェスチャーで、あれこれアドバイスをしてくれた。チップはここに置け、タイミングはこう、返ってきたらこんな感じで受け取れ――「やけに親切だなあ」と思いつつ、正直それどころではなかった。
普段なら1000円のランチを食べるのだって躊躇するのに、その5倍の金額が、1回のゲームで行き来するのである。テーブル上を行き来する、何万円分ものチップの山。興奮、陶酔に目がくらむようで、生きた心地がしない。