J-CAST「トレンド」面では、最近出版された本の紹介記事も掲載している。その中で2016年に最も読まれたのは「『京都ぎらい』なぜ受ける 『洛外』育ちが本音トークぶちまけた」(朝日新書)だった。
ほかにも今年を映し出す本がベスト10にランキングした。これらの記事が読まれたワケをあらためて探った。
アマゾンよりコメントが多かった
「『京都ぎらい』なぜ受ける」の記事は4月2日の公開。トレンド面の本の紹介記事としては、空前の反響を呼んだ。Facebookのシェアはまたたく間に1000を超えた。続報としてJ-CASTニュースで、「『京都ぎらい』の本音がネットで大ウケした! 『言ってはいけない』うっぷんがあふれる」も掲載したが、こちらも同様に注目された。
2月に「新書大賞」を受賞したこともあり、同書の紹介記事はあちこちのメディアに出た。ヤフーで「京都嫌い」と検索すると、そんな中でもJ-CASTの二つの記事が最上位に並んで他を圧した。
著者の井上章一・国際日本文化研究センター教授は、京都生まれだが、「洛外」出身。京都の本流とされる「洛中」出身者への複雑な思いを、事情通ならではの体験をもとに本音でぶちまけ、J-CASTの記事は、そのエッセンスをたっぷり伝えた。二つの記事を合わせるとコメントは軽く200を超え、アマゾンの本の紹介ページのコメント数よりもはるかに多かった。コメントでは「洛中」側からの反論もあり、ネットでの「論争」に発展した。
共通する「格差」
2位に入ったのは『23区格差』(池田利道著、中公新書ラクレ)を扱った記事だ。「港区904万円、足立区323万円」――。同じ東京といっても、区によって住民の所得水準や生活環境に大差があるということをデータで示して衝撃を与えた。記事を公開したのは7月17日。ちょうど都知事選の時期だった。これからの東京をどうするか。参考情報が満載ということで関心を集めた。
ほぼ同数で3位にランクインしたのは『天才』(石原慎太郎著、幻冬舎)を紹介した記事だ。著者が元首相に成り代わり、自分の人生と業績を一人称の語りで回顧する異色本だ。当然ながら自己弁護、自画自賛に。書かれた内容をそのまま信じていいのか。J-CASTの記事では、元首相を辞任に追い込んだ『田中金脈研究』(立花隆著)の記述とのズレなども指摘した。今年は多数の「角栄本」が出たが、それらのいくつかも併せて紹介した。
ベストスリーの3冊には、共通項がある。「格差」だ。『京都ぎらい』は洛中育ちの「本当の京都人」が、それ以外の人を「見下している」という「育ちの格差」を書いていた。『23区格差』はズバリ、住んでいるところによる「居住地格差」。ともに多くの人がふだんから漠然と感じていることを、はっきり示した。
『天才』の主人公、田中元首相は、「格差克服」の人だった。政治家として地方のテレビ局、地方への高速道路、地方新幹線、地方空港建設などに力を注ぎ、「都市と地方の格差是正」に力を注いだ。自身は高等小学校卒。「学歴格差」をものともせず、底辺から這い上がった「立志伝中の人」「今太閤」だった。
「格差社会」が叫ばれる今の時代。三冊とも期せずして「格差」と関係していた。田中元首相が今も人気なのは、「格差」に挑戦した姿が共感を呼ぶからなのかもしれない。
虐待や高齢化社会がらみも
4位の「『ホラーすぎる』と話題の絵本」は近年、しばしば問題になる「虐待」をテーマにしている。MOMOさん作、YUKOさんの絵。本のタイトルは『わかってほしい』(クレヨンハウス)。作者の子供時代の実体験がもとになっているロングセラーだ。
5位の『彼女の家出』(文化出版局)は、50歳を過ぎていつのまにか還暦が近づいてきた女性の、悩ましい日々のつぶやきだ。高齢化社会。迫りくる老後をどう生きるか。今から心構えをしておかねばならない。「熟年離婚」や「おひとりさま」が頭をよぎる。その意味ではこれも今日的な本だった。
6位には、『フリーメイスン 3WAYヘルメットバッグBOOK』(宝島社)が入った。謎のベールに包まれていたフリーメイスンの実像に迫った本だ。7位には英語参考書のベストセラー『Forest』が新名称を公募する話。新たな版元がいいずな書店になった経緯などを書いた。8位は、SMAP草彅剛さんの20年間のクロニクル本『Okiraku 2 通常版』(KADOKAWA)の紹介。草彅さんの仕事への思いや人生観などが詰まった1冊だ。9位は新創刊の分冊百科『ディズニーツムツム編みぐるみコレクション』(アシェット・コレクションズ・ジャパン)、10位には子供の寝かしつけ絵本、『おやすみ、ロジャー 魔法のぐっすり絵本』(飛鳥新社)の紹介記事が入った。